神海家の人々
居間に行くと既に叔父さんを除く
叔母さん一家は食卓についていた。
和音「遅れてすみません!」
叔母「大丈夫よ、さあ席について」
私が席につくと"いただきます"の
号令でみんな食べはじめた。
叔母さん一家は全部で5人、
叔父さんの保大さん
叔母さんの美弥子さん
従兄弟の杏くんと
愁くん、
そして藍ちゃん。
ちなみに…、
杏くんが高二で
愁くんが中一
藍ちゃんは小六
の、仲良し三兄弟。
私も従兄弟の三人とは本当の
兄弟のように接していた。
藍「ねぇ和音ちゃん!今の曲ってなぁに?」
無邪気に聞くのは藍ちゃん。
私は藍ちゃんに拙いながらも
ピアノを教えてあげていた。
和音「あれは革命っていうんだよ、今度のテストの課題曲なんだ」
藍「へぇ…、弾くの難しい?」
和音「うー…ん、慣れれば弾けるようにはなるけど…、結構難しいよ」
愁「和音が難しいって言うんだもん藍にはまだ無理だよ」
藍「お兄ちゃんは黙っててよ!藍だって弾けるようになるもん!」
杏「愁、藍、喧嘩は余所でやれ」
楽しい団欒の時間。
叔母さんの家は実家よりも
居心地がよかった。
歳の近い従兄弟たちと
仲良く話しながら
食卓を囲むことは
私の数少ない楽しみの時間でもあった。
夕飯後、食器洗いの
手伝いをしていた。
食器洗いが終わったら藍ちゃんに
ピアノを教える約束をした。
そしてその後に自分の
ピアノの練習をする。
意外とハードスケジュールだ。
私が水気を拭き取った
食器を戻していると
不意に叔母さんから
話し掛けられた。
叔母「いつもありがとね、助かってるわ」
和音「あ、いえ、当たり前のことですから」
なるべく笑顔でそう返すと
叔母さんの表情が少しだけ曇った。
叔母「和音ちゃん、無理してない?大丈夫?」
私はギクリと肩を震わせた。
和音「い、いえ!全然そんなことないです!私は元気がとりえですから」
叔母さんは蛇口を閉めると
エプロンで手を拭き
私の頭を優しく撫でた。
叔母「和音ちゃんが、私の本当の子だったらよかったのに…」
和音「叔母…さん…」
叔母「そうしたら無理に音楽をやらせることも無かったし、うちの子供たちだってきっと…」
そこまで言うと叔母さんは
はっ、とした様子で
手を引っ込めた。
叔母「ゴメンね…、藍が待ってるでしょ?もうここ大丈夫、あとは私がやるわ」
和音「…はい、ありがとうございます」
私はお礼を言うと足早に
その場を後にした。
私は自室に向かいながら
先程の言葉を思い返していた。
《無理してない?》
和音「…無理……、か…」
私はいつでも
"元気な明るい和音"で
なければならないと考えてきた。
学校でも家でも誰の前でも…。
何か辛いことがあって
落ち込んでいても
私が暗い顔をしていると
迷惑がかかると思ったし
ただでさえ神海家のみんなには
9年もお世話になってるから
とにかく迷惑はかけちゃいけない
その一心で今まで生活してきたから。
ガチャッ
藍「あ!和音ちゃん遅いよ!」
和音「ごめんごめん!ちょっと時間かかりすぎちゃって」
部屋に着くと藍ちゃんは既に居た。
楽譜を広げて机の上に置いて
ピアノを弾くように
指を動かしている。
きちんと復習してたんだ。
和音「きちんと復習して偉いね、さぁ椅子に座って、レッスン開始だよ」
藍「えへへ、やったぁ!」
藍ちゃんは照れ臭そうに
微笑んだ後に
嬉しそうに椅子に座った。
私はその隣に椅子を運び腰掛ける。
和音「えっと…、"ユモレスク"だったよね、それじゃあこのページの二小節まで弾いてみて」
藍「うん!」
~…♪
タンタタタンタンタンタンターン!
~~♪
藍ちゃんの弾くピアノは
聞いていてとても心地よい
強弱や滑らかさ等の表現力もあるし
メトロノームを使わなくても
ある程度リズムがとれている。
私も藍ちゃんみたいに
ピアノが弾けたらなぁ…、、
藍「……和音ちゃん?弾いたよ?どこかおかしかった?」
和音「あ、ううん!大丈夫、全然おかしくないよ!…でもここはもう少しゆっくりでもいいかな?あまり早過ぎると綺麗に上がっていかないから…、でね…――――」
こうして藍ちゃんの
ピアノのレッスンは
二時間程続き、
やることがたくさんあった
今日、床についた時刻は
午前2時を回っていた。
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