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楽斗「それじゃあ今日はありがとう、学校で見かけた時は気軽に声をかけてね」



それだけ言い残して楽斗先輩は

去って行った。



和音「………はぁ、」



気がつくと日は疾うに傾き、

空には星が見え始めていた。


私もそろそろ帰らなきゃ…



そして私が家に着く頃、

辺りは真っ暗になっていた。


私は気持ちを入れ替えて

玄関の扉を開いた。


和音「…ただいまー!」


叔母「あらお帰りなさい、随分遅かったのね」




居室からは叔母さんの声がした。


もう叔母さんも

帰ってきている時間なんだ。


私は適当に相槌をうってから

自分の部屋に入り、

部屋着に着替えてから

何となくベッドに横になった。



私の部屋には

白いグランドピアノがある。



2歳の誕生日にお母さんが

プレゼントしてくれたもの。



和音「…"ママみたいに立派なピアニストになるのよ"…か、」



そんなの無理に決まってる。



私には才能の欠片も無いもの。






私はベッドから起き上がり、

ピアノ椅子に腰掛け鍵盤に指を置いた。



ポーー…ン



和音「私に"音を楽しむ"ことは出来ないよ、奏斗…」



母は有名なピアニストの

麻木(アサキ) 音乃(オトノ)

父はマエストロの

麻木(アサキ) 大和(ヤマト)

そして一人娘の私

神海 和音。



苗字が違う理由はただ一つ、

二人の子だと認められていないから。


だから私は両親が認めてくれるまで

近親の家に養女として

小学生の頃から預けられている。


幼稚園の頃まで私は

麻木 和音だったのに…。


音楽一家に生まれた代償は

あまりにも大きすぎた。



でも私には音楽の才能の欠片も無い



ピアノだって習っているから

弾けるくらいのレベルだし


歌を歌えば正確に

音を合わせることが出来ない。


俗に言う音痴。


音楽療法は感性が無いから出来ない。


作詞作曲なんて以ての外。


だから私は両親に忌み嫌われてきた。


音楽家の娘とは思えない

この為体に両親は

正直もう何も期待していない。


…だから私は、

音を楽しむことなんて

出来ないし、


二度と麻木の苗字を語ることも

許されないのだ。






今は高校に通う事さえ辛い。


学園に入学した当初は友達が

たくさん出来たけど、

私の音楽の才能の無さに

いつの間にか皆離れて行った。


そして誰もが訝し気に

何故私が橘学園の入試に

合格出来たのかを思うのだ。


橘学園に入れたのは

正直に言うと音楽家の

両親のコネである。


父も母も母校が橘学園だから

一応娘の私も橘学園に

通わせたかったらしい。


だから私はテストを受けていないし

実技もしていない。


あったのは軽い面接だけ。


だから超難関校の橘学園に

あっさり入学出来たのだった。



和音「…………」



ポー……ン、


タターンタターン!


タターンタターン!


~♪



私が弾きはじめたのは"革命"


ポーランドの作曲家、

フレデリック・ショパンによる

"12の練習曲 作品10"の

第12曲である。


今期の期末テストの課題曲であるこの曲は私にとって思い入れのある曲だった。






音乃《…いい?和音、この曲はね、ショパンが演奏旅行でポーランドを離れていた時に、革命が失敗、故郷のワルシャワが陥落したって報告を受けて作曲したのよ。

"革命"というタイトルはフランツ・リストが命名したものなの》


和音《かく…めい……?》


音乃《そう、革命》


和音《ふぅん…、ねぇママ!かずもかくめい弾けるようになりたい!》


音乃《いいわよ、教えてあげる、和音も頑張って立派なピアニストになるのよ》


和音《うん!かずがんばる!ぜったいにピアニストになる!》



―――――――――――



~~~♪……………、



私は弾き終えると

ぼーっと椅子に座っていた。



思い出すのは幼い頃の記憶



まだ音を楽しんでいた時のこと



ピアノを弾くことが

楽しくて仕方なかった頃。



でも今は……、




叔母「和音ちゃーん!ご飯出来たわよー!」



和音「あ、はぁい!」


私は慌てて蓋を閉じ、居間へ向かった。





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