橋の袂
…~♪…~~♪
「あ…、まただ」
私は最近学校の帰り道で
必ず足を止める場所がある。
小さな川を跨いだ町を繋ぐ橋。
そこで毎日決まった時間になると
誰かのハミングが聞こえてくるのだ。
最初は空耳かと思ったけど、
こうも毎日聞こえてくると
鈍感な私でも流石に気付く。
高音から低音まで綺麗に
歌い慣らしている。
でもこのハミング、
毎日聴き入っていると
いつの間にか聞こえなくなっているのだ。
「…一体誰なんだろ?」
私は綺麗なハミングを奏でる
主を知りたくて意を決し、
橋の袂へ下りる事にした。
橋の下には小さなスペースがある。
幼い頃は夏場になると
学校帰りに友達とここを訪れて
水遊びの休憩場所にしていた。
でも今は下へ下りる石の階段の周りを
整備する人がいなくて
草が生い茂っていた。
なんとか下りることに成功するとハミングの主の所へ近付くことにした。
「~~♪…~♪~♪」
ゆっくり、ゆっくり近付き草の影に身を隠し顔を上げた時だった。
「お前、何してんだ」
「え!?きゃあ!」
急に男の子が目の前に立っていたのだ。
私は驚いて尻餅をついてしまった。
「大丈夫かよ、ほら。」
手を差し出されたが私は気まずさに咳払いを一つすると、自力で立ち上がってから埃を払った。
「素直じゃねえ女。」
「うるさいわね。私には"和音"って名前があるのよ。」
「かずね…?」
「そう。神海和音。神様の海に音楽の和音で私の漢字。」
「別にそこまで聞いてねぇし。」
「アンタは??名前なによ。」
チラリと一瞥されてからぶっきらぼうに
こう返された。
「…知らないやつに名乗る義務なんて無い。」
私はムッとして怒鳴ってしまった。
和音「なによ!素直じゃないわね!」
男の子は柱にもたれながら睨んだ。
「おー、怖い怖い。お前さ、その制服とリボンの色…、橘学園高等科の器楽科の一年だろ、あの名門音楽学校の。」
和音「そうだけど何か?」
「音楽学校のお嬢様に似付かわしくない女だな。とにかくお前言葉を慎めよ。俺は高三、お前の年上だからな。」
和音「…は?年上!!!!!? 本当に!?」
「本当だって言ってんだろ」
ムカつく。こんなに印象最悪なヤツが私の年上なんて。
だけど年上だって認めたくないから敬語なんて使ってやらないもんね。
私はなるべく引きつった顔を笑顔にして男の子を見やった。
和音「ねえ貴方、じゃあなんで私服なの?
この辺りの高校はみんな
指定の制服があるはずよ」
すると男の子はちらりと
こちらを見た。
「お前には関係ない」
和音「なっ!!!!?」
「じゃあな」
和音「あ!ちょっと!」
男の子は河原の石を器用に渡って向こう岸へ行ってしまった。
和音「本っっっっ当に腹立つ…!! あんなのが先輩だなんて認めないんだから!!……あれ?」
先程男の子が居たところを見ると何かが落ちていた。
和音「えっ?これって…、」
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