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知らない、知らない




―――――――――――



全てを話し終わった奏斗の表情は少しだけ晴れていた。


もやもやとした心の蟠りが少しだけでも取れたみたいで嬉しい。




でも、ずっと聞いていてある疑問が浮かぶ。


これは私が聞いて大丈夫なのか分からないけど、でも、気になる。




"約束"って、どんな約束なの?




勿論これは大切な思い出なんだと思うから私なんかが踏み入れてはいけない領域なのは分かってる。


でも、何だか妙に心の奥底で引っかかってる物がある。


そんな私の胸中を知ってか知らずか、奏斗がぽつりと口を開いた。



奏斗「"約束"のこと、アイツはきっと忘れちまってんだよ。未だに話してこねぇし。俺たちのことを覚えているかさえ知らねぇし。」



和音「その、約束って…。」



私が言い掛けた言葉は奏斗の言葉に遮られる。




奏斗「俺と楽斗の初恋の相手との約束だ。」



和音「っ…!?」




奏斗の横顔が切なくて、何となくこの話題から逸れるように言葉を探す。



和音「ピアノ、」



奏斗「は?」



和音「ピアノ!!私に教えてよ!!」



ぱっと起き上がり、奏斗に満面の笑みで向き直る。



奏斗「藪から棒に、何だよ急に…。」



訝しげな視線を誤魔化すために大げさに身振り手振りを付けながら話す。



和音「発表会が近いのにもうずっっっっっっと弾いてないから下手なピアノがもっと下手になったと思うんだ。だから…、」








奏斗「お前はさ、本当に覚えてないのか?」





和音「へ…?何を…?」





ドクンッと、心臓が大きく脈打つ。



自分でも分からないのに冷や汗が出てきた。



私、何か隠してたことあったっけ??




奏斗「お前さ、本当に、ピアノが下手だったのか?」



和音「なに…、何を言ってるの?」



顔が強ばって笑顔が作れない。




奏斗「その取って付けたような性格も、お前の本心はどこに行ったんだよ。」





本心?私は全て本当のことしか話してないはずだけど…。




和音「っ…!!いた…!!」



急に頭が締め付けられるようなズキズキとした痛みを訴え始めた。


何かがおかしい。


そして、ふと頭の中に覚えのない映像が浮かぶ。














紫色の石と、碧色の石と、橙色の石を私が握り締めてから、誰か2人に渡している。




その肝心な相手の顔が霞掛かって見えないけど、その口が確かに言葉を結ぶ。



" ヤ ク ソ ク だ よ "









なんなの、この映像は。



私、知らない…!!

こんなの、知らない!!




和音「知らない…!!知らない!!!!!!」





奏斗「おい、どうした?!」




和音「やめて!!!!!!触らないで!!!!!!!!」



自分でもよく分からずに奏斗を拒絶してしまう。




でも、だめ、よく分からないけど、どうしても奏斗が言っていたことを受け入れられない。



まるで私という存在が得体の知れない何かから怯えているように。




奏斗「悪かった、余計なことを言っちまった。早く帰るぞ。」



和音「…や……て。」



奏斗が起き上がり、私の腕を引いて帰ろうとしたときに無意識に言葉が出てしまった。



奏斗「は?」






和音「やめて…、なっちゃん」






奏斗「っ!!!!!!!!?おい!!!!それ!!…………!!、………!!!!」









奏斗の言葉を全て聞く前に、私の意識が暗転した。






.

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