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私の支えは…




本当は差し伸べられた手を取りたかった。


だけどそれは負けを意味することだと思ったから取らなかった。


こんな事で挫けているようではダメ。


私は強いんだから。






ふと顔を上げると、いつの間にか奏斗のいる橋に来ていたみたい。


ああ、どうしてここに来てしまったのかな。


自分でもよく分からなかった。



来る途中たくさんの人に怪訝の目を向けられたけどそんなこと気にしているほどゆとりがなかった。



ふらふらと歩き、空を仰ぐ。




酷く澄んだ空は私にとって眩しすぎる物だった。





《~~~♪》


《~~~~~~~~~♪》




あ、これ。


私はこれが聞きたかったんだ。




和音「か…………な……と。 」





ぽつり、ぽつりと地面を水滴が濡らす。



あれ、雨なんて降ってなかったのに。

どうして地面が濡れてるんだろう。


おかしいな。




ああ、これは。私の涙なんだ。




和音「かな…と……かなと……奏斗ぉ……!!」




喉が掠れて声も出ないよ。


それでも、声にならない声で叫ぶ。


どうしても奏斗に会いたかった。


奏斗に会って、「バカだなお前は」って、笑い飛ばしてもらいたかった。



和音「がくとせんぱい、ごめんなさい…」






ここで私の視界は暗転した。














**************







ピッ、ピッ、ピッ、ピッ…、




聞き慣れない電子音がする。


ここはどこ?




うっすらと目を開けると見慣れない真っ白の天井が目に写った。


そこから首を動かし周りを見渡すと、何だかたくさんの管に繋がれた私の腕や足。そしてテレビや収納等が視界に入る。


そして、鼻を突く独特の消毒液の匂い。



これだけあればいくら私でも分かる。

ここは病院で私は入院したんだということ。


周りに自分以外のベッドは無く、ここが個室だと言うことを如実に物語っている。


私は試しに管に繋がれた右腕を動かそうとする。


しかし、身体が鉛のように重くて上手く動かすことが出来ない。


次は声。流石に声は出せるだろうと、軽く息を吸い込む。



和音「……ぁ……、あ、げほげほ!!」




これは参った。声も満足に出せないとは。



そんなことを考えていると、急にドアが開いた。

私は思わず身構えてしまう。



カラカラカラ…



看護士「あら!!和音ちゃん起きたの?まだ無理矢理起きようとしちゃダメよ。」



彼女は点滴のパックを替えにきたらしく、手際良く作業を進めていく。



看護士「和音ちゃんね、軽く肺炎を起こしてたのよ。風邪の段階で病院に来ないからこうなっちゃったんだからね。パパもママも兄弟もお友達もみんな心配してたわよ。」



…あ、そういうこと。


パパ→叔父さん

ママ→叔母さん

兄弟→杏くん愁くん藍ちゃん



これまでは分かったけども、



お友達→…誰?



そう考えていた時だった。



カラカラカラ…、




楽斗「失礼しまーす。…和音さん、目が覚めましたか?」


看護士「今目が覚めたみたいよ。あ!!奏斗くんにはまだ言わないでね、また脱走してくるから。」




ひょっとして、ひょっとしなくても。


お友達って、楽斗先輩?



和音「が、がくと…せんぱ…っ、げほげほ!!」


看護士「あ!!こら!!まだ声出しは禁止!!」



一言発するだけで喉が酷く痛んだ。

思ったより相当重傷らしい。


ため息をつくと看護士の方を見る。


彼女は既に点滴のパックを替え終わったらしく、後片付けをしていた。



看護士「じゃあ、また3時間後に来るから。じゃあね。」





カラカラカラ…





看護士が居なくなると訪れる静寂。

最も、私は声が出せないから何とも言えないけど。



すると楽斗先輩は制服のポケットからメモ帳を取り出し、すらすらと何かを書いていた。




楽斗[筆談しよう。僕だけ話すのはフェアじゃないから、僕も筆談する。]



なる程。そういうことね。

納得しながらメモ帳とペンを受け取り文字を記していく。



和音[分かりました。あの、ここはどこですか?]


楽斗[向日葵総合病院。兄さんと同じ病院だよ。]


和音[奏斗と一緒なんですか。]


楽斗[大鳥橋の近くで君が倒れてるのを兄さんが見つけた。僕も君を追っていたから直ぐに駆けつけてタクシーを呼んだんだ。]



"僕も君を追っていた"


あ、そう言えば私。

楽斗先輩に酷いことを…。




《 …勝手なこと、しないで下さい。 》



段々とあの時の記憶が蘇ってくる。




和音[その節は本当にすみませんでした。私、熱で頭おかしくなってたみたいです。]



本当の理由は違ったけど、何となく本当の理由は言いたくなかった。




楽斗[僕は気にしてないから別に良いよ。でも…]



そこで楽斗先輩のペンが止まった。





一枚の紙とペンを回して使っていたから私はどうしようもなくて楽斗先輩を見やる。


その顔は酷く悲しそうだった。




楽斗[君は、何を望んでいるんだい?]



そこでペンを渡された。




望む?私の望み?


私は別に何も…、




いや、違う。楽斗先輩はきっと私の核心に迫る秘密に気づいているのかもしれない。



神海家の人しか知らない秘密。



でもそれならどうして…?


ぎゅっと、ペンを握りしめてから記す。






和音[私の望みは、言えません。]



これは、言わない。言えない。



言ったら止まらなくなる。



これは私の問題だから。




気付くとカタカタと手が震えていた。



楽斗先輩はそれに気付くと私の手を軽く包み込んだ。


そして、ニコリと笑って一言だけ発した。




楽斗「明日も来るね。」




そう言って楽斗先輩は帰ってしまった。




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