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進むいじめ




あれから数週間。



私に対する風当たりは余計に酷くなったように思う。



前までは言うなればシカト型の嫌がらせだったけど、成績を出した途端物理型嫌がらせが続いた。



物が無くなるのは日常茶飯事。

移動教室の変更があったとき私に知らされることはない。

机には罵倒の落書きが所狭しと並んでおり、陰口が酷くなった。


今まで劣等生だった人間が成績を残すだけでこうも追いやられるとはつくづく冷たい世の中である。



そして、もう一つ変わったことはあの日から一度も奏斗や楽斗先輩に会いに行っていないことである。



何となく、あの橋を避けて帰るようになったし、楽斗先輩に会わないように声楽科の教室棟に近寄らなくした。

幾分か遠回りになるけど、あれ以上情けない姿を2人に見せたくなかったし、迷惑をかけたくなかったから。



そして今日も私は帰り道に嫌がらせを受けている。


商店街の裏通りは人が寄り付かない。

つまり、陰湿な嫌がらせにはもってこいの場所。


数名の女子生徒や男子生徒に突き飛ばされ、叩かれ、髪を引っ張られ。


日に日に増えていく絆創膏の数に比例して溜め息も増えていくばかりだった。



最後はゴミ捨て場に押し倒され、笑いながら立ち去っていった。




和音「……痛っ、口切った。」



口の中に溜まった血をその辺に吐き出し立ち上がる。


思うことはたくさんあるがとりあえず鞄の中から鏡を取り出し顔を見る。



和音「……大丈夫だよね。バレないバレない。」




大丈夫。大丈夫。


全然平気。


私は強いから。




ポーチからコームを取り出し軽く髪を整え、制服の泥やゴミを払い、家に帰るために歩き出した。






***************





本試験まであと一月。


学校では必履修科目を最低限に縮小し、あとは全てレッスンの時間に当てている。


ちなみにこのレッスンの時間、2~3人に1人の割合で先生がつくのだが、私にレッスンをしてくれる先生は誰一人としていない。


だから私はいつも自主練だった。




初等科の頃からそう。

中等科の頃だって環境は変わらなかった。

高等科になったから変わることでもない。

だから私はいつも通り一人でレッスンをする。




練習室はいつも通りAS-155室。

部屋に入り、内鍵を閉めて部屋の準備をする。



ピアノの蓋を開けて、部屋の窓を開けて、最後にピアノ椅子の調節。



あの模擬試験の日以来集中してピアノを弾く機会が少なかった為何としてでも誰にも邪魔されないように弾きたかった。



けど、




和音「っ?!」




ツーっと、人差し指から血が流れ出した。


ピアノ椅子の調節をするためレバーに触れたところ、何か針のような物に指を刺してしまったようだった。


椅子をよく見てみると、ご丁寧にセロテープで何重にもくくりつけられている画鋲があった。




和音「…………はあ。」




セロテープを剥がして画鋲を撤去する。




つくづく暇な人たち。

その暇な時間を私に寄越して欲しいよ。


そう悪態をつきながらピアノ椅子を調節し腰掛ける。






和音「……………もう、時間がないんだ。」






ぽつりと呟いてから、指慣らしをして課題曲を弾き始めた。



だけど、




和音「……………ダメ、だ。」






何度弾いてもあの時の感覚が戻らない。

模擬試験の時の感覚。


あの時は奏斗や楽斗先輩に言われたことを素直に飲み込めたのに。



焦って繰り返して弾くけど、その焦りが余計に曲の雰囲気を壊してしまって、結局悪循環になる。



和音「何で…、何でなのよ…!!」



バーン!!と、両手で乱暴に鍵盤を叩いた。


先ほど怪我をした指がズキンと痛んだけど気にならない。



それよりも、どうしていいか分からない。


また逆戻りだ。


せっかく楽斗先輩に教えてもらったのに。


有り得ない。




和音「……大丈夫。大丈夫。」



大丈夫。大丈夫。


きっと疲れただけ。


色々あったから気持ちが落ち着かないだけなのよ。



第一、自分のせいなのに物に当たるのは最低な人間だってママが教えてくれたじゃない。




和音「…やろう。大丈夫だから。」





少し頭がくらくらするけど平気。


だって疲れただけだから。



***************




キャハハハハ!!!!!!!!!


この子本当に汚い女!!!!!!!!!


自分のためなら何でもするのね!!!!!!!!!


意地汚い、こんな子が同じクラスに居るなんて反吐が出るわ!!!!!!!!!




和音「げほげほ!!…っ、おえ、」



放課後、花壇に追いやられてバケツの水を掛けられた。


しかもそれでは飽きたらず、ホースで水を掛けると来たものだから、


流石に身体が冷え切って先程から歯がガチガチとなって震えが止まらない。





放課後だからって良い根性してるよな、本当に。



「ねえ、聞いてるの?意地汚い神海さん?」



髪の毛を引っ張られ無理矢理顔を上に向かせられる。


冗談抜きにしてすごーく痛い。



和音「触るな、クソ女…っ、」



「っ、まだ足りないようね!!」




そう言って、ホースをこちらに向けた時だった。












楽斗「君たち、何をしているの?」



「が、楽斗先輩!?」


「ちょっとマズいわよ!!楽斗先輩に見つかるなんて!!」




和音「はあ…、はあ…。」




視界が霞む。頭が痛い。



楽斗「……………?……………!!」


「……………!!………………!!」


「……………!!」




何かを言っているみたいだけど、私には聞こえない。


それほどまで衰弱していたのかもしれない。



気がつくと私を追い立てていた女共は居なくなっていた。



楽斗「和音さん?大丈夫?しっかりして?」



手を差し伸べられているみたいだけど、私は無理矢理払いのけた。




和音「…勝手なこと、しないで下さい。」



楽斗「っ!?…和音さん、ちょっと!!」





立ち上がるとあちこちが痛む気がする。


ふらふらする身体に鞭を打って宛てもなく駆け出した。




.

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