4 お互い様
タクシーが家の前につく。
降りると、丁度夫が歩いてきた。
「あれ?どっか行ってたのか?」
「うん。ちょっと飲んできた」
「ふーん」
それだけか。
誰と何処へ行ってたのか聞かないのか。
気にならないのか。
少しチクリとしたけれど、考えてみれば私だって聞いてない。
夫が今日何処で誰と飲んでいたかなんて知らない。
知ろうともしない。
お互い様か。
夫が脱いだスーツを、ハンガーにかける。
香水の匂いが鼻をかすめる。
キャバクラにでも行ってたのだろうか。
それとも・・・
いや、こんなにわかりやすい証拠を残すようじゃ、さすがにデリカシーがない。
お茶を淹れようとお湯を沸かしていると、夫が声を掛けてきた。
「シャワー先使うぞ」
「どうぞ。一緒に入りますか?」
おどけて聞けば、バカにしたようにかわされる。
「はいはい。また今度な」
お得意の「今度」か。
今度っていつなの?
待ってれば来るの?」
投げかけたい疑問を、アツアツのほうじ茶で流し込む。
熱がスーッと落ちてお腹にたまっていく。
じんわりと熱が体に広がる。
飲み込み続けた不平不満は、溶けて無くなるのだろうか。
それとも、いつか爆発してしまうのだろうか。
なくなってしまえば、良いのに。
風呂から上がると、夫はもうイビキをかいて寝ていた。
私も隣のベッドに潜り込む。
今夜は眠れないかもしれないなんて思ったが、疲れとアルコールですんなりと寝付いていたようだ。
夢の中では夫が見知らぬ女と楽しげに話している。
やたら露出の多い服で、夫にまとわりつく女。
嬉しそうに腰をなでまわし、首筋に唇を当てる夫。
「乾杯しましょ」
「そうだな。今日から俺たちは晴れて恋人だ」
チリーン
グラスを合わせる音で目覚める。
目覚まし時計が懸命に朝を知らせている。
寝ぼけ眼で夫を起こし、玄関で見送る。
いってらっしゃいのキス。
今日もここから、長い1日が始まる。