プチトマト
私を手ひどく振った男がプチトマトになって、皿に乗っていた。
白くて平たい大きな皿の中央に、彼の顔をしたプチトマトが乗っているのである。
私はそれにフォークの先を軽く当てた。ちょっと固い感触がする。
フォークの先でプチトマトの彼を、ころころ転がした。右へ左へ、転がした。それから、ひとおもいに突き刺したりしないで、ゆっくりと彼にフォークを沈めた。
ぷち。
「ぎあ」
プチトマトが声を上げた。落とさないように、そおっと、私は自分の口にプチトマトを運ぶ。唇でプチトマトを挟む。フォークを彼から引き抜き、皿の上に伏せて置いた。
意を決して、彼を口の中に含むと、私は舌で彼を転がした。つるつるのプチトマトの舌触り。フォークを突き刺した場所から出た汁がちょっと嫌な感じ。うっかり潰したりしないよう私は加減しながら、プチトマトの彼に歯を立てる。口の中で転がしながら、何度も何度も甘噛みする。口の中で、彼は私の唾液にまみれながら、ぎゃあぎゃあ悲鳴を上げて、うるさい。
白い皿にぺっと吐き出した。
私はプチトマトが嫌いなのだ。あの甘いような、酸っぱいような味が嫌いだ。呑み込もうとすると、おえっとなる。
皿の上の彼は、汁が飛び出て、ぐちゃぐちゃになっていた。
呑み込んでなんか、やらない。
私はプチトマトを、ゴミ箱にポイっと捨てた。
目が覚めて、全部夢だと知って、自己嫌悪に陥った。
何も口に入っていないのに、口の中にプチトマトの味が広がっている。酸味がこびりついている。
突然おえっとなりそうになって、必死にこらえた。
涙が出てくる。
私も相当性格悪いな。
ポイっと捨てたはずなのに。
私の口の中で泣いている彼の声は心地よかった。