動画3
われわれの世界と人間と言う種族はつかの間の現象なのかもしれない。さらにまた快い楽観主義と無責任によって正体を隠されている血も凍る奇怪なものが生きており、思いをめぐらし観測してしまうことでその禍々しくも神や万物の法則さえも捻じ曲げその理性を狂わそうとしている冒涜的な存在が目の前に存在している。それは……。
「キモヲタ」
「ちょっとまて! 俺は『キモヲタ』じゃねーよ『紳士』と呼べと前から言ってるだろ、このゆとり! てか俺を化け物みたいに見るんじゃねー、お前の手伝いできてんだぞもっと感謝しろい」
二人の口元が緩む。キモヲタと呼ばれた男がブヨブヨと揺れる脂肪と滝のように流れる汗を撒き散らしながら立ち上がり話し出す。
「指示された避難先を探して急いでいたらいきなり、いい防護壁。ゆとりが用意してるとは思わなかったぜ?」
「俺一人じゃここまでのバリケードは用意できなかったYO、うちの備蓄管理官がほとんど用意してくれたんだぜ。それより避難民はどうしたんよ、キモヲタにホイホイついて来ちゃったんだろ?」
「アッー! お前んとこの備蓄管理官って言ったらアレだろ、フル装填された銃でロシアンルーレットやって勝ったとか、ゾンビに噛まれて、3日3晩もがき苦しんだ末にゾンビが死んだとか、すげー伝説がある超有名人じゃねーか! 会ってみたかったぜ。そうそう避難民は外で待っている、中に入りたくても入り口が無いから、男は度胸で俺が登ってきたんだぜ? とりあえず避難民見てくれよ、どう思う?」
少年がハシゴを架け壁の外を見る。そこには避難民達がなんとなく引いた目線でこちらを見ている。会話を聞かれちゃったかな?
「すごく……よそよそしいです」
何もなかったように明るく振舞いながら、避難民をバリケードに収容する前に持ち物の検査と一応武器を預かる。全員疲れ切った顔をし服は汚れ、かすかに悪臭を放っている、構成は成人男性が39人、成人女性が10人、子供が11人、昨日の夜から食事をとっていないらしい。
キモヲタに仮設風呂の用意と、着替え一式などの生活用品の配布を頼む。自分は野外炊飯具3号を使って湯を沸かし葛湯を準備しながら食器セットと一緒に配布する。
「子供、女性、男性の順番で配布しますので並んでください。胃腸が弱っている可能性があるのでゆっくりと胃に入れてください。あと食器は何度も使いますから、個人で洗浄し清潔に管理してください」
男性の一部が不満そうな顔をしているが、とりあえず様子見で妥協してくれているようだ。子供達は空腹と疲れのために動けないらしく、女性達が子供の食器を持ってくる。葛湯をよそいながら子供の様子を見ていると、温かいものを口に出来たおかげか少し笑顔が見られた。男性にも配り終えた頃にキモヲタが風呂の準備が出来たと言って来た。
「それえでは、お風呂が用意できたので準備が出来た子供と女性から先に入浴してください。その後、男性が入浴するようにしてください。あと汚れた服は洗濯をしますのでこちらの袋に入れてください。最後に、入浴後にお粥を配布しますので食器をもって並ぶようお願いします」
そう少年が避難民達に伝えると、女性達が自分達で洗濯をしたいと申し出があり、風呂の残り湯を使いたいので洗濯は明日という話になる。
「ゆとり、ちょっと手伝ってくれ」
キモヲタが声をかけてきたので、アルファ化米に湯を注ぎ、ワカメ入り五分粥と梅干を用意してから避難民に入浴後自由に食べてもらってかまわないと声をかけてから手伝いに行く。キモヲタは寝袋やウレタンマットの配布準備を施設内でしていた。避難民は入浴が終わった子供や女性がお粥を食べ始めているらしくバックヤードで資材と格闘している二人の耳に歓声が聞こえた。
「俺と、秘密な話をしないか?ゆとり」
「お前がロリコン童帝で魔法使いだということは知っている」
「なん…だと……。じゃなくて、気になる事があるって話さ」
「お前がさっきから幼女をチラチラと観賞しているのは知っている、犯罪だからやめとけ」
「いや見てはいるけどそれ違う、違うって! 超違う!!! 避難民をここへ誘導している間にイロイロと話を聞いたんだけどな、前に居たバリケードは自衛隊管轄のだったらしいぜ? おかしくね?」
「必死乙。バリケード放棄した経過はしらねーけど、自衛隊だって失敗する事ぐらいあるだろ? まぁ、準安全地帯に配置されている、中途半端な俺らが戦うよりずっと安全だとは思うけどな」
「お前本当にゆとりだな、最初に避難民と接触したなら経過とかそこらへんも聞いておけよ。自衛隊のバリケードならⅡ型ゾンビが10万匹きたって破れねーんだよ。まぁ、かなりの数の守備隊員が危険地帯へ緊急出動した後での籠城状態へバリケードの体制が変更されていたのに、ゾンビ共がなだれ込んできたらしい」
「ありえねー。てか、なんでゾンビがバリケードを越えて入れるんだよ、矛盾してるぞ? 俺はそんな餌に釣られないんだぜ?」
「ぷっ、だからお前はゆとりなんだよ、脊髄反射で否定する前に考えろや。とにかく、防護壁の門を開けてゾンビを引き入れた奴がいる、と俺は考えている。アセンションって叫び声を聞いたって証言もあるしな」
「何その自殺行動。てかアセンションなんて言い出す奴らって、ニューエイジ運動からスピリチュアル系のセクト(カルト)関係か?」
「あぁ、いまどきアセンションなんて叫んでゾンビに味方するような奴らといったら、マインドコントロールや洗脳・薬物使用と、なんでもありの宗教団体・黙示録教ぐらいだろうな」
「あいつらって、地球がフォトンベルトの渦の中に入ったことで、強力な光子の未知なる力により人類の遺伝子を進化させた。ゾンビこそアセンションした人類の正しい姿なのだ~ って、わけわからん主張をしてるセクト(カルト)だよな。あいつらは、アセンションをするために、自分達が先導して全人類をゾンビにしなければならない、全人類がゾンビになった時、神の慈愛の元に世界は平和になり、家族と再開することが出来るって運動をやっていやがる。このまえ入信者募集メールきてたけど、着信拒否にした」
「説明乙、てか教義でゾンビを殺す事も否定してるから、家族がゾンビになった人や大切な人との再会とか、人類総ゾンビ化すればまた平和な生活に戻れると信じて運動しているらしい。俺なら、そんなもん信じるぐらいならエロゲの世界に行けるって教義の、虹元教を信じたほうが有意義だと思うけどな」
「最低だな、教団もお前も」
「おまっ、エロゲ馬鹿にする奴は人生の半分は楽しめてないんだぜ?」
「だまれキモヲタ! そんなんだから童帝魔法使いなんだよ。てか、お前が避難民と会話できるほどコミュ力あるなんてありえない!」
「ふっ…幼女となら俺は最高の紳士になれるんだぜ? 会話なんておてのものさ(キリッ」
二人しか理解できない微妙な会話をしながら寝具配布の用意が終わる。男性は1階、女性は2階で寝起きをするように決め、消灯時間は22:00、起床は07:00と周知する。施設の施錠を確認しながら見回りをすると、さすがに疲れているらしく全員眠っているがイビキが結構うるさい、希望者がいたら耳栓を配布する必要もありそうだ。
「そろそろ日付が変わりそうだけどキモオタ、俺達も飯と風呂にしようか」
野外指揮所で、機材の設置をしているキモヲタに声をかけながら、インスタントコーヒーとブロッククッキーを持っていく。二人とも不味いブロッククッキーを無理やりコーヒーで胃に流し込む。温かい塊が胃に落ちてきて、じんわりと体に広がるのが気持ちいい。
「悪いけど見張りはキモヲタ頼む、俺は04:00から朝食の準備をするから少し眠りたい」
「見張りは任せろー! 幼女の寝顔が見れるなんてめったにないからな」
「やめて!」
「本気だから安心してくれ」
「キモヲタ……お前の遺書は俺が書いておく、だから安心して死んでくれ」
そう言いながら少年は腰に装備しているナイフを音もなく抜く。
「オーケイ、冷静に話し合おうぜ? ソウルブラザー。普通に見張りはやるさ、それよりも健康な避難民を暇にさせておくと碌な事しないぞ? 何かやらせる事は考えたか?」
「あぁ、それなんだよな~とりあえず女性には家事全般と子供の世話、子供は大人の手伝い、男共で戦える奴は外に出てここへ繋がる道を封鎖&周辺民家の安全確認、残りの奴らは戦闘訓練とバリケードの補強&見張りって所でどうだろ?」
「おまえ基本的なこと忘れてるだろ、これだからゆとりは……。俺達の勝利条件は罹患者をだしちゃぁいけないんだぜ? だから同じ目的を共有してもらう必要がある。あと一番危険な民家の探索は訓練受けてる俺達がしなきゃだめだろ。」
キモヲタは、コーヒーを一気に飲み干してから施設内を一瞥し夜空に目を移しながら話を続ける。
「それと、不確定要素として黙示録教信者の存在を忘れてるぞ、ここのバリケードにゾンビを侵入させる方法を考えてみようぜ? ゆとりはどう考える?」
「そうだな、ここは入り口が無い。壁にハシゴを使って入る方法しかないけど2型ゾンビにはハシゴを使うだけの知能が無い。だとすると、外に出て罹患者となるか壁の破壊か、ゾンビを持ち込むってとこか~てどれも難しくね?」
「罹患者になるのは、発症まで約3分から3日だから外でゾンビになってしまう可能性を考えると確実性が無いな。壁の破壊は爆薬でも使って一気にやるしかないな、1トン土嚢の土は攻めるほうとしてはかなり厄介だ、穴を作るにしても作業を見つからないようにするのは無理だしキッチリ見回りしていれば見逃すことはない。一番ありそうなのはゾンビの頭部だけ持ち込むって方法だろうな」
キモヲタが、うえぇっというおどけた表情を一瞬してから、真顔になって話を続ける。
「外に出る奴らは集団行動させ変なものを持ち帰らないように監視、内側に居る奴らも適当な理由付けて班で動かしながらお互いを監視してもらう形になるか。例えるなら一人歩きの幼女にはイロイロと危険がいっぱいだけど、引率つきの集団幼女には危険が少なめだろ?そんな感じだ」
「わけわからん例えするな、この不審者!その発言は報告書に書いとくからな、逮捕されてしまえ」
「フヒヒ、俺は紳士なんだぜ?とりあえず、お前は風呂入って寝ろ。見張りはやってやるからよ!」
キモヲタは、イラッとする笑いをしながら装備を入れたケースを開ける。そこには、ノートPCと組み立て式のラジコン飛行機のようなものが入っている。
60cm飛行体と書かれているそれを組み立て、ノートPCから飛行体に飛行計画のデータを転送する。小さなプロペラが静かに回転を始めるのを確認し、指揮所から外に出て、飛行体を手投げて空へ発進させる。飛行体からノートPCへリアルタイムに赤外線動画が転送され、数分後、安定飛行を開始しこの施設を中心に周囲の偵察を自立的に開始する。
「イロイロな意味で不安だけど、キモヲタ頼むな」
そう言って少年はナイフを鞘に収め、冷たくなり始めた風呂に入り体の汗を流す。途中キモヲタが女性へのサービスに必要だと言って『おたのしみ写真』を撮ろうとしたのでデジカメを没収しておいた。最後の最後で精神的にもの凄く疲れながら寝袋に入る、朝食の献立は何にしようかと考えているうちにいつの間にか眠っていた……。
今回も読んでいただきありがとうございます。
なんと言いましょうかキャラの動かし方といいますか話し方と言いますか
悩みながら書いています。
こんなんですけど、見捨てないで読んでいただければ幸いです。