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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

気まぐれ企画 異世界で無双しても、気抜け状態が収まらない件

作者: 赤川ココ
掲載日:2025/12/10

義理の親子です。

 (しのぎ)は、溜息を吐く。

 数年前、喧嘩仲間と死に別れた。

 昔のように、自分が手にかけたわけではない。

 なのに、様々な思いが胸をよぎってしまい、異世界での作業に荒が出てしまっていた。

「……突然死、だったからなあ」

 凹みまくった短いペットボトルを振り回しながら、凌はしんみりと呟く。

 聞いた話によると、草むしりしている最中、倒れたらしい。

 当時、周囲には誰もおらず、彼の二番弟子が昼食時間に呼びに行って、発見した。

 その時にはもう、蘇生不可能なほど時間が経っていたそうで、身内全員が悔しがっていた。

 凌は、その訃報を聞いた時、今だったかと納得した、つもりだった。

 血の繋がらない兄が、大昔に凌が手にかけた喧嘩仲間を甦らせたと聞いた時から、覚悟はあったのだ。

 だが、実際にその場になると、矢張り悲しみが湧いた。

 葬儀の時に使われた、畳半畳分に引き伸ばされた遺影。

 あれは、本人と笑う場面だった。

 なのに、その本人は柩の中だ。

 爆笑を抑えながら涙が出たが、あれは、笑い過ぎのせいだったのか、実は悲しんでいたせいなのか、未だに判断が出来ていない。

 はあ、と溜息を吐き、凌は周囲を見回した。

「何だか、調子が出ないなあ」

「……」

 銀髪の大男の哀愁漂う背に、控えめな声がかかった。

「お義父さん、おはようございます」

 振り返ると、そこには娘婿がいた。

 東洋系の色目の、整った顔立ちのその男は、立ち尽くしていた凌の傍に立ち、その顔を見上げた。

「何処か、具合でも悪いですか? 返り血がついてます」

 見下ろした娘婿の、気遣い溢れる問いで、凌は自分の顔が汚れていることに気付いた。

「お、不味い不味い。乾いたら、取れにくいからなあ」

「ああ、お手拭き持ってきました。どうぞ」

 袖で顔を拭おうとする前に、娘婿が濡れた手拭いを差し出した。

 受け取った舅が、顔を拭いている間に、男は肩にかけていた鞄を降ろし、中から折詰弁当を取り出す。

「夜は食べましたか? 明日の朝までの弁当を、用意してきたんですが」

「おおっ。助かる。いやな、ここに来る前に、変わった獣を狩って食ったんだが、味気なくてな。調味料位、持参すればよかったと、後悔していたんだ」

 喜んでくれる舅に微笑み、男(れん)は言った。

「それは良かった。今日からオレとセイが交代で、差し入れを持ってきますので、食事の心配は、しなくても大丈夫です」

 そういう話になったかと、凌は笑顔で頷いた。

 日帰りで往復する上に、他の転移者を訪ねるのは、重労働だ。

 夫婦で仲良く交代で行う分には、逆に楽しいだろう。

「……」

 嬉しそうな舅を見つつ、蓮は少し違うんだがと、内心で呟いた。

 大体自分は、異世界を自由に行き来できない。

 だからこそ、昨日の家族会議は必須だったのだ。

 意図せずこの世界に連れてこられたのは、エン夫婦を含んで数組。

 うち三組は無事元の世界に戻ったが、他のカップルは普通にこの世界を楽しんでいるようだと、蓮の祖父によって報告されていた。

 そのカップルたちは、様々な理由から、水入らずで旅行に行けなかった連中ばかりだったので、この機会にのんびりしてもらいながら、ついでに凌の手伝いをしてくれるよう、頼みに行こうという話になった。

 家族会議になったのは、その頼みに行く役をどう割り振るかを話し合う必要性が、出たからだ。

 一緒の場所にいた三組ともが、帰る判断を下してしまった事で、凌の動向だけ見守る訳にはいかなくなったのが、痛かった。

 未だにセイに対して過保護な面々は、セイが一人でこちらとあちらを行き来する事に難色を示したのだ。

 日帰りも心配だと言う意見もあり、一週間交代での異世界泊まり込みの案は、切り出す前に掻き消えた。

 凌の言う案も出たが、これは蓮が一人で世界を渡る術があるならば可能だったが、生憎そこまで異常ではないため断念し、結局今回の状況に落ち着いた。

「ん? 蓮、お前さん、今失礼は事を考えなかったか?」

「いえ。オレ自身の不甲斐なさを、考えていただけです」

「別に、見知らぬ世界に渡れないことは、不甲斐なくはないぞ。オレたちが、異常なだけだ」

 真顔で言われ、蓮は唸ってしまう。

 はっきりと認められてしまったら、取り繕った意味がない。

 それに、気づかれているようだ。

「……お察しの通り、今日はオレがお義父さんの補佐に回り、セイはこちらに来てしまっている連中に、接触しています」

「まあ、それが効率良いな。お前さんを送り迎えするためだけに、往復するよりは」

 凌は頷きながら、折詰の弁当の蓋を開いた。

 器用に箸を持ち、律儀に手を合わせてから弁当の中身に箸を伸ばす。

 それを見守りながら、蓮は鞄の中からエコバックを取り出した。

「これ、松本(まつもと)家からの差し入れです。使い古しは持って帰ります」

 中身は、空のペットボトルだ。

 この舅は、先代から今代にかけての、松本建設の社長に、慕われている上にその性格も把握されている。

 こちらに来る前に持って出たのがそれだったので、これ以外を武器に使う気はないのだろうと察し、松本氏は一晩でこれを用意した。

 作業員の差し入れだった茶の空容器を洗い、干しただけのものだ。

「……これも、助かる。(ごう)に、礼を言っておいてくれ」

 微笑んで受け取った凌から目を離し、蓮は周囲を見回した。

 そんな娘婿に気付き、大男は申し訳なさそうに言う。

「汚いままで済まん。これではお前さん、座れないな」

「いえ。充分綺麗ですよ」

 答えて凌の前に座った蓮は、呆れていた。

「そうか? ちと、雑な仕事をしたと、反省をしていたんだが」

「そんなことはないですよ。祖父さんが書いた簡単な地図では、ここ一帯が石畳のある街、だったんですよね?」

 唐揚げを頬張った凌は、無言で頷いた。

 矢張り、座標間違いでは、なかった。

 さっき、ここに送ってくれた妻が焦っていたが、優秀なセイが、何度も失敗するはずがないと、宥めて本日の目的地に送り出したのだっだ。

 蓮の予想通り、石畳の名残すらない、ただの更地のここが、ゴブリンの街だったのだ。

 蓮の舅は、たった一人で、たった一晩で、何人いたか分からない好戦的な街の者を、跡形もなく消してしまっていた。

「跡形もなく、ではないぞ」

 内心驚いていた蓮に、それを察した凌が言う。

「まだ戦力ではない子供や、老人たちは逃がす時間を与えた。まあ、ぎりぎりまで残っていたから、選別は手間だったが。別な村だか街だかに、逃げ出せるように隙は作ったつもりだから、間違って死なせてはいないと思う」

 その言葉に感心しつつ、つい心配を口にした。

「そんな気遣い、よくできましたね。久しぶりの大暴れだと、聞いていたんですが?」

「ああ。そうなんだよ……オレらしく、ないんだ」

 胡坐をかいて座る舅が、深い溜息を吐いて唐揚げを口に押し込んだ。

「ん。うまい」

「どうも……」

 物が喉を通るなら、ちゃんと味が分かるなら、大丈夫か。

 少しだけ安心しながらも、凌が話したいと思えるまで、神妙に待つ。

「……気楽に背を任せ、周囲を気にせず、思いっきり暴れられるのが、どれだけ恵まれていたか、今になって実感したようだ」

「はあ、今更、ですか」

 おかしな言い方だ。

 首を傾げた蓮に苦笑し、凌は言う。

「実はな、大昔、水月(みづき)を葬った後から、こういう群れを襲う事は、控えていたんだ」

 理由は、殲滅の動機を知ったら、冷静ではいられないと、自覚していたからだ。

 カスミが下準備している現場ならば、まだ更生の余地のある者を選分ける作業を終えた状態で、場を提供してもらえるが、凌にまで話が持ち込まれる事は、殆どなかった。

 水月を甦らせたと、兄から聞いた後も、その機会には恵まれず、実感する機会もなかったのだ。

 ようやく、大手を振って暴れられると思った時には、背中を任せられる奴はまた、居なくなっていた。

 その事実が、無意識に色々な縛りを作ってしまった。

 大暴れ出来なかった事が、虚しさと喧嘩仲間の死を、同時に実感させてしまった、ようだ。

 不器用な言葉選びでそこまで言って、凌はまた、溜息を吐いた。

 それを黙って聞きながら、舅の動きを見ていた蓮は頷いた。

 しんみりと本音を吐く凌だが、その合間に朝食用の折詰を、綺麗に平らげてくれたので、まだ心配するレベルではない。

 一つの街で、気が晴れなかったのなら、次に期待すれば良いのだ。

 幸い、殲滅対象は、まだまだ沢山ある。

 何日かかるか分からないが、気が済むまで付き合おう。

 それが、親孝行の一つになるだろうから。




 


この二人の関係性は、かなり穏便です。

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