沖田総司、成長期の未来予想図
屯所の朝の空気は冷たい。
台所で湯をわかしながら、近藤勇は胃をさする。
昨夜から続く鈍い痛み
「先生、僕の主治医が“近藤先生とお話したいって言ってるんです
明日、朝食前に一緒にいいですか?」
総司の軽やかな声に、近藤は少し驚きながらも頷いた。
「ああ、わかった。お前のことなら、わしも聞いておかねばなるまい」
こうして二人は病院の廊下を歩いている。
白衣の医師が現れ、総司が軽く会釈する。
「近藤さん、どうぞ中へ」
「はい…?わし一人で入るのか……」
(もしや、検査で……総司には言えないようなものが見つかったのか?)
心臓は バクバク、胃がますます痛む。
戸惑う間もなく、診察室の扉が閉まった。
診察室で、医師はにこやかに近藤の肩に手を置く
「よくいらしてくださいました。
胃が調子悪いそうですね。
朝食もまだのようですので、このままいろいろ検査してしまいましょう」
近藤は驚きの表情で口を開く。
「え、わし?…わしではなく、総司の容体は…」
総司はするりと部屋に入り 近藤の腕を取り、にっこり。
「先生、自分の身体をこそ大事にするのが誠の武士ですよ。」
と検査室までエスコートする。
医師は診断を告げる。
「神経性胃炎です。
頑張りすぎ、心配し過ぎ、とてもお疲れのようですね」
「沖田さんに聞きましたが、
“厠の監視隊”なるものを作られたとか」
医師は穏やかに微笑む。
「お優しいんですね。
でもね、沖田さんはもう大人です。
本人もしっかりしています。
もう、手を離しても大丈夫ですよ。
それより、ご自身を労わることが大事です。
総司くんも恥ずかしい思いをしていますし、
過保護なお風呂や厠の監視隊はもう不要ですよ」
念のため と 胃薬のほかに
抗不安薬も処方されてしまった 近藤勇である。
めでたく厠とお風呂の“観察隊”がいなくなり、
総司はようやく人としての尊厳ある生活を取り戻した。
近藤先生は相変わらずの心配性だ。
……でも最近は、前より少しだけ落ち着いたような気がする。
僕は、きっとまあまあ丈夫な大人になると思う。
そしたら先生も、きっと安心してくれるだろうな
五年後の自分――
風邪もひかず、倒れもせず、
いっぱい笑って、剣を振って、
近藤先生を助ける立派な大人になるはずだ。
その日、沖田総司は道場で竹刀を握っていた。
健康証明書がどうあれ、健康偏差値がどうあれ、
竹刀を構える総司は誰よりも力強く輝いている。
⸻
おまけ
ある日の午後。
縁側で、沖田・原田・斎藤・永倉の四人が団子をつついていた。
永倉「なあ、聞いたか? 近藤さん、31なんだとよ」
原田「またその話かよ。でも、31って……どう見ても50過ぎだろ!」
斎藤「31には見えん」
沖田「あははっ。みんなそう言うよね。でもね――近藤さん、正式には僕の“師匠”じゃなくて、“兄弟子”なんだよ」
永倉「は? 兄弟子?」
沖田「ふふ。同じ天然理心流の門人なの。
ぼく、小さい頃に内弟子に入って……兄弟子だった近藤先生が、生活全部みてくれたって感じ」
原田「ああ、それでいまだに『総司、手洗ったか』『うがいしたか』って言ってくるのか。どう見ても“年季の入った親父”だぞ」
沖田「まあ、僕、昔は栄養失調でよく病気しててね。すごく心配かける子供だったから。
近藤先生、昔からめちゃくちゃ頼れるんだよー」
永倉「十代の頃からもう“局長の貫禄”だったってわけか……生まれつき局長かよ」
原田「孫の世話してそうだもんな。“総司、風邪ひくなよ〜”って」
沖田「実際そんな感じ。『体を大事にしろ』って昔から口癖だし」
斎藤「……近藤さん、総司が風邪ひくと、ふーふーしながら粥食べさせるからな。あれは驚いた」
原田「まあ、近藤さんだからな。でもよ、土方さんはどうなんだ?」
永倉「あっちは30だったな」
沖田「そう。一つ下」
原田「へぇ〜。見た目は若いけど、態度が偉そうなんだよな!」
永倉「わかるわ。腕組みして“フンッ”ってやる感じ」
沖田「あれね、格好つけてるんじゃなくて“照れてる”んだよ〜」
斎藤「……そうなのか」
沖田「ふふ。褒められると“フン”って言って逃げるの」
原田「可愛いな、それ!」
永倉「おいおい、“鬼の副長”を可愛いとか言うなって!」
(場の笑いが広がる)
沖田「でも、局長も副長も、歳は若いのに……背負っているものは大人以上ですよ」
(少し静けさが流れ、四人は湯をすする)
永倉「……だな。若いって聞いて、余計に尊敬したわ」
原田「ほんとだな。俺も、ちょっとだけ背筋伸ばそ」
斎藤「……過保護じいちゃんだけどな」
原田「しかも重度だしなー」
笑い声が、夕風に溶けていった




