湯当たり騒動⑤ お墨付きとくしゃみと逃走劇
健康偏差値ランキング発表から数日後。
近藤はにこにこと廊下を歩きながら、掲示を見上げていた。
「いやぁ、いい表だなあ。見ていて楽しい」
一方、沖田総司は腕を組んで、掲示板をじっと睨んでいた。
まるで軍議の布陣図でも読むかのように真剣である。
ちゃんと健康証明書を出したのに、
あの屈辱の《監視隊》は継続中。
健康偏差値は堂々の最下位。
(こんな生活、もう耐えられない!)
土方は気の毒そうに言った。
「健康証明、本来ならあれで十分だと思うが……
近藤さんはおまえのこととなると、超過保護だからなあ」
「そうだ、同じ健康証明でも――
幕府大学の医者が出したやつなら絶対効力あるぞ。
近藤さん、そういう“権威”に弱いから」
総司の目が輝いた。
「……じゃ、それ行きます!!」
⸻
「幕府大学洛中病院へ」
数日後。
総司は、近藤勇・土方歳三両名に付き添われ、洛中の病院へ。
驚くことに、二人とも羽織袴の正装である。
「畏れ多くも幕府大学病院だから」だそうだ。
二人とも、かちこち。
白衣の医師たちが慌ただしく行き交う。
「すごい……文明の香りがしますね」
「ここで“健康証明”をもらえれば完璧だ。
もう誰も監視隊を作ろうとは言えまい」
診察室に通されると、威厳ある教授医師が現れた。
近藤は身を乗り出す。
「先生、うちの総司は病弱で、心配です。
隅から隅まで、よーく見てください」
教授医師の目がきらり。
「なかなかいい青年だ……お任せください。
隅から隅まで、徹底的に」
そこから――
丸一日がかりのフルメディカルチェック。
そしてついに手に入れた。
『幕府大学病院発行 沖田総司 だいたい健康なり』
金の印が押された立派な証明書。
総司はそれを胸に抱き、屯所の廊下をスキップしていた。
「ふふん、これでもう“厠監視隊”も解散~♪
近藤先生も納得~
だって、幕府お墨付き~♪」
その足取りは軽く、髪もふわふわ。
健康偏差値、ついに逆転。
だが――
「……へっくし!!!!」
すさまじいくしゃみ。
総司は固まる。
(ま、まずい……これは……!)
のどがヒリ、身体の奥がじんわり熱い。
(やばい。風邪。……いや、違う!
だって僕、今“幕府大学健康印付き男子”だぞ!?)
焦りまくりの総司。
今バレたら監視隊復活どころか、
「健康証明取り消し」までありえる。
「……藤堂くんっ! 斎藤くんっ!!」
ちょうど通りかかった二人を物陰から呼ぶ。
「どうした、そうじ?」
「しーっ! しーっ!!」
総司は涙目で訴えた。
「お願い! ぼく……ちょっと風邪っぽいかも……」
「……は?」
「今バレたら、監視隊復活!
風呂も厠も! 呼吸まで監視されちゃうかもーー!」
藤堂は吹き出す。
「あるか、そんな監視!」
「あるんだよぉ! 過去にあったんだよぉ!」
斎藤はため息をつき、腕を組む。
「……で、どうしたい」
「僕を……どこかに隠してぇぇぇ!!
熱が出る前に!!」
「いまのところ熱もないだろう。鼻声だけだ」
「でも喉がイガイガするんだよぉ!
これ絶対、熱が出るタイプの風邪だーー!!」
結局、斎藤の判断で――
“屯所の物置部屋(乾物倉庫)”に避難。
「ここなら誰も来ない」
「助かるぅ……」
総司は布団にくるまりながら鼻をすすった。
守るぞ、健康証明!
しかし物置は寒く、
風邪はどんどん勢いを増していった――。
ーつづくー
今日も健康こそ誠!
次回もどうぞお楽しみに♨️




