CELL
世界のあちこちで争いごとが治まらない時間がいつまでも続いていた少し先の未来…いきなり脳内にそれは届いた。
「君たち、少し静かにしてくれないか。胃が痛むんだ」
誰だ?
と思う間もなく、
頭の中に姿が浮かんだ。
──巨大な人間のような存在。
宇宙そのものだった。
「胃が痛い…?」
「そう。君たちが作った汚染や争いが、私の体に炎症を起こしている」
その言葉に返事をする前に、胸の奥から別の声がした。
「ちょっと!私たち、限界です!」
今度は自分の体の細胞たち。
「睡眠不足で修復作業が追いつきません。免疫部隊も疲労困憊です」
私は思わず笑ってしまいそうになったが、二方向から真剣な声で訴えられている。
上からも、下からも。
「……わかった。宇宙さん、私たちも必死なんです。便利さを求めて無理をして、結果あなたに迷惑をかけている。すぐに全部を変えるのは難しい。でも意識を変えていきます」
宇宙はしばし黙り、それから低くうなずいた。
「努力が伝われば、それでいい。私も君たちをただの細胞とは思っていない。役割がある」
私は続けて、自分の細胞たちに向き合った。
「ごめん。無理を押しつけてた。少しでも眠るようにするし、食事も見直す。だから、もう少しだけ耐えてほしい」
細胞たちは小さくざわめき、やがて一斉に
「ありがとう」と返した。
それは安堵と希望が混ざった声だった。
こうして私は気づいた。
宇宙も、細胞も、ただ苦情を言いたいのではなく、
『自分の存在を理解してほしい』
だけなのだ。
大きな存在も、小さな存在も。
夜空を見上げると、星が少し優しく瞬いている気がした。
そして体の奥では、細胞たちが静かに仕事を続けていた。
そのとき、宇宙の声がまた降ってきた。
「ありがとう。けれど、私にも限界がある。やがて私は大きなくしゃみをする。その瞬間、すべてが砕け、新しい細胞たちが生まれるだろう」
私は息を呑んだ。
──それが、ビッグバン。
宇宙は破滅を恐れていない。
むしろ次の命を生む営みとして受け止めている。
細胞が死んでも新しい細胞が生まれるように。
私が死んでも、別の命が続いていくように。
「終わりは始まりなんだね」
そうつぶやくと、
宇宙は静かに笑った。
小さい頃から自分のいる世界はこうだと思ってた。




