導入:彼の仕事は『探索隊』
世界で一度だけ特別な贈り物があったとしよう
それは今後の人生を左右する
もしくは
『その方向性』を決めてしまうような贈り物
であると
さて、そんな物が『どうしようもない物』
だったとしたらどう思うだろう?
答えは簡単だ
そんな物なかったんだと
忘れてしまうのが吉だろう
彼はそうした
◆◇◆◇◆
「やけに入り組んでるな」
彼は今、迷宮と呼ばれる異空間にいる
ここではいろいろな物が手に入る
金銀財宝、様々な資源に食料品
どれも品質の良し悪しはあれど
無限に手に入る夢のような空間だ
彼もそのひとりかと言われれば
そうであって、そうではない
彼らにとって手に入れたいのは
現物ではなく情報だ
それは『採取隊』という仕事の
結果、産物と言える代物だ
彼がやっているのは後発のためになる
それは迷宮探索における最初の危険
内部構造を書き留める『探索隊』だ
迷宮内は観測するまでその内部は未知数で
誰かしらが先陣を切ってその形を
観測しなければならない
未知の領域に入ると言うことは
命の危険がつきまとう
迷えば餓死
見つかれば戦死
精神をやられる危険性もある
そんな仕事だから給与はそこそこ
日に食事を摂り、貯金をする分には
事欠かない
何と言っても『誰でも』成れる仕事なのがいい
彼みたいな者にとっては大助かりだった
◆◇◆◇◆
「ここまでか…」
今回に限っては進んだ先で嫌なものを見た
それは『迷宮の心臓部』だった
ここまで来るのに何の苦労もなかった
このことから道中で
何の脅威もなかったことは明らかだ
それはこの迷宮が(ただの迷路)であり
何の資源も得られないことを
如実に表していることに他ならなかった
剥き出しで脈動する『それ』を前に
ため息が溢れることだろう
本来であれば鉱床や生物が確認されるものの
今回に至ってはそれがなかった
所謂『ハズレ』である
先に述べた通り危険を承知で潜る以上
何かしらの報酬がなくては骨折り損なのである
それまでに費やした
時間、資源、費用ーそのどれもが無駄になる
依頼主にとって大きな損失だ
『探索隊』として満足のいかない結果は
あるだろうか?いや、ないだろう
それでも支払われる給与に彼は
何とも言えない気持ちで帰路に着く
日に1度、多くて2度
迷宮に潜る、それが彼の仕事だ