第3章:決意
週末、翔太は家族で宗像大社に向かった。宗像大社は、福岡では有名な交通安全にご利益のある場所だ。美咲が最近、交通安全のお守りを買いに行こうと言い出したこともあり、ちょうど良い機会だと思った。菜々子も久しぶりのお出かけに大はしゃぎしている。
「宗像大社は、交通安全の神様が祀られているんだって」
美咲がそう説明すると、菜々子は「パパもお守り買ってね!」と可愛らしくお願いしてきた。翔太は笑顔で頷きながら、「これで家族を守れるなら、いくらでも買おう」と思った。
境内に入ると、厳かな雰囲気に包まれ、家族全員が少し静かになった。参拝客も多く、賑わいながらも落ち着いた空気が流れている。
「じゃあ、お参りしてからお守りを買いに行こうか」
美咲の提案に従い、3人は手を合わせて祈った。翔太は「家族の安全を守ってください」と心から願った。菜々子も一生懸命に祈っている姿が微笑ましい。
その時、翔太の目に一組の家族が映った。小さな子供を連れた夫婦だが、3人の頭上には異様に高い数字が浮かんでいる。
「92.3%…」
翔太は一瞬、見間違いかと思った。しかし、何度見ても数字は変わらない。この家族には何か大きな危険が迫っているようだ。
「どうする…?」
翔太はその場で迷った。声をかけるべきか、いや、ただの通りすがりの他人にそんなことを言われても、不審がられるだけだろう。それでも、このまま何もせずに放っておくことはできなかった。
意を決して、翔太は家族に「少し待ってて」と告げ、問題の家族に近づいた。
「すみません、突然ですが、もう少しここで時間を過ごしたほうがいいかもしれません」
夫婦は驚いて振り向き、怪訝そうな表情を浮かべた。夫は警戒した様子で答える。
「どういうことですか?」
翔太は少し考えた後、できるだけ自然に話そうと努めた。
「いや、最近この近くで交通事故が多いと聞いたもので。少し休憩してから出発したほうがいいかもしれませんよ」
妻も怪しむように翔太を見つめる。
「そうですか…でも、もう帰ろうと思っていたところなので」
やはり不審がられている。翔太は内心焦りながらも、「どうか、もう少しだけ時間を」と頭の中で祈った。その時、ふと数字が変化したのに気づいた。
「68.9%」
少し下がった。このまま時間を稼げば、何とかなるかもしれない。翔太はさらに話題を変えながら、その場で会話を続ける。
「そういえば、この神社には新しいお守りもあるそうですよ。よかったら見ていかれませんか?」
夫婦は困惑しながらも、少し興味を持ったようで「それもいいかもしれませんね」と答えた。その瞬間、数字はさらに低くなり、「15.0%」まで下がった。
「良かった…これで大丈夫だ」
翔太は心の中で安堵の息をついた。その後、夫婦は感謝の言葉を述べて去って行った。完全に理解していないが、彼らも何か感じるものがあったのだろう。
家族の元に戻ると、美咲が不思議そうに尋ねた。
「今、何してたの?」
「ちょっと…少し気になることがあってね」
曖昧な返事しかできなかったが、美咲はそれ以上追及せず、ただ微笑んで頷いた。菜々子も「パパ、何かいいことしたの?」と興味津々に尋ねてきた。
翔太は優しく頭を撫でながら答えた。
「そうだね。少しだけ、ね」
その言葉に、美咲は翔太の心中を察したようにそっと手を握った。翔太は家族と一緒にいることの安心感を再確認しながら、「この能力も、悪くないかもしれない」と思い始めていた。
宗像大社を後にする車の中、翔太はふとバックミラーを見た。家族の頭上には「0.0%」という数字が浮かんでいる。
「守るべきものはここにある」
そう確信した瞬間、翔太の中に一つの決意が芽生えていた。この力がどれほど恐ろしくても、それが誰かの命を救えるなら、迷う理由はない。翔太は静かに目を閉じ、深く息を吸い込んだ。