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第2章: 不可避

 それから数日間、翔太は必死にこの能力を無視しようとした。「これは何かの錯覚だ」と自分に言い聞かせ、普段通りの生活を心がけた。しかし、出勤時や買い物中、さらにはカフェで休んでいるときですら、周囲の人々の頭上に浮かぶ数字は消えることがなかった。


 通勤電車の中でも、再び「98.7%」といった高い数字を目にすることがあった。しかし、翔太はもう見ないように視線を逸らすだけだった。「見ても仕方がない」と、無視し続ける決意を固めていた。


 だが、その決意はすぐに揺らぐことになる。


 ある日の昼休み、翔太はオフィスビルの近くにある公園でランチを取ることにした。秋の風が心地よく、木々の葉が少しずつ色づき始めている。ベンチに腰掛け、サンドイッチをかじりながら一息ついた。


 その時、近くの遊具で遊んでいる子供たちに目を向けた。彼らは無邪気に笑い合い、追いかけっこをしている。そんな中、一人の小さな女の子の頭上に「35.4%」という異常に高い数字が浮かんでいた。


「こんな小さな子が、どうして…?」


 思わず立ち上がり、女の子に近づこうとする翔太。しかし、彼女の母親らしき女性が側にいたため、不審者扱いされることを恐れて立ち止まった。


 その直後、女の子は遊具から落ちて頭を打った。すぐに泣き出し、母親が慌てて駆け寄る。


「大丈夫、大丈夫よ!」


 女性は必死に娘を抱きかかえながら、スマートフォンで救急車を呼んでいる様子だ。翔太はその光景を遠くから見つめるしかなかった。「見てしまったが、何もできなかった」という無力感が胸を締め付けた。


「やっぱり、この数字は危険を示している…」


 翔太はその場から動けず、ただ立ち尽くした。


 帰宅後、翔太はリビングのソファに座り込んだ。頭の中は混乱しており、この異常な現象にどう対処すべきか考えがまとまらない。美咲がキッチンから顔を出し、心配そうに尋ねた。


「どうしたの? 今日は元気がないみたいだけど。」


「いや、ちょっと疲れてるだけさ。」


 美咲はその言葉を信じた様子で微笑み、料理の続きを始めた。翔太は再び数字を見ることを恐れながらも、美咲と菜々子の頭上を確認した。二人とも相変わらず「0.0%」だった。


「家族だけでも守られている…それが唯一の救いだ。」


 翔太は自分にそう言い聞かせ、少しだけ安心感を得た。しかし、無視することができない現実は、日に日に彼の心を蝕んでいった。


 次の日、仕事で取引先に向かう途中、またもや「95.0%」という高い数字の女性に遭遇した。翔太はもう避けて通ることができなくなっていた。彼はその女性の行動を目で追った。


 すると、信号が青に変わったタイミングで、女性はスマートフォンに夢中になりながら横断歩道を渡り始めた。だが、突然、車が信号を無視して猛スピードで突っ込んできた。


 翔太は反射的に女性に向かって叫んだ。


「危ない!」


 女性は驚いて立ち止まり、すぐ目の前を車が通り過ぎた。ほんの数秒の差で、大惨事は回避されたのだ。女性は息を呑み、翔太に感謝の言葉を述べた。


「ありがとうございます、本当に…」


 翔太は頭を下げる女性を見ながら、自分でも信じられない気持ちだった。数字が見えることは、決して偶然ではない。これは、自分が関わるべき何かだと感じた瞬間だった。


「無視するわけにはいかないんだ…」


 翔太は深いため息をつき、心の中で決意を固めた。この能力は、恐怖だけでなく、誰かを救うために与えられたものかもしれない。


「だったら俺にできることをやるしか…。」


 この日を境に、翔太は自分の能力を受け入れる決心をした。それがどんな結果をもたらすのかは分からない。それでも、自分の目の前で誰かが危険にさらされているのを見過ごすことは、もうできなかった。

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