第1章: 見えざる死の兆候
翌朝、翔太は再び数字が見えることを恐れていた。だが、通勤時間に迫ると、その恐怖と不安は少しずつ現実味を帯びてきた。駅のホームに立つと、周囲の人々の頭上にはやはり数字が浮かび上がっていた。
「0.0%」「0.3%」「1.2%」と、ほとんどの人は低い数字だった。しかし、ある女性の頭上には「15.8%」という比較的高い確率が表示されているのを見つけた。
「15.8%? 何が起きるんだ?」
翔太はその女性を注視した。特に見た目に異常はないし、普通の通勤客に見える。だが、次の瞬間、電車がホームに到着すると同時に、彼女は足を滑らせてホームの縁に倒れ込みそうになった。
周囲の乗客が慌てて彼女を引き戻し、なんとか事故は避けられた。しかし、その光景を目の当たりにした翔太は、心臓が激しく鼓動するのを感じた。
「やっぱり…」
翔太はその場に立ち尽くしながら、自分の見ている数字が偶然ではないことを確信し始めていた。この「死の確率」は何かの予兆であり、何らかの危険を示しているのだと。
電車に乗り込むと、翔太は再び周囲を見渡した。ほとんどの乗客は「0.0%」から「1.0%」の間で、大きな変化はなかった。しかし、車両の中央に立つ中年男性に目を留めた瞬間、彼の頭上に表示された「78.9%」という異常に高い数字に驚いた。
「なぜこんなに高いんだ?」
不安を感じた翔太は、周囲の乗客も彼に注意を向けることなく、スマートフォンをいじったり、会話をしている様子を見て、改めてこの数字が自分にしか見えていないことを確認した。
突然、電車が急ブレーキをかけた。乗客たちは驚き、身体を揺らしながら立ち直る。その瞬間、中年男性は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「大丈夫ですか?」
近くの乗客が声をかけると、彼は苦しそうに「胸が…痛い…」と呟いた。すぐに救急車が呼ばれ、次の駅で緊急停車した電車から男性は運び出された。
翔太はその光景を見ながら、震えを抑えられなかった。
「本当に…死の確率が分かるのか…?」
自分が見ている数字は偶然ではなく、現実の危険を示している。翔太はその恐怖を全身で感じ取ったが、それでもこの現象を理解するには時間が必要だと思った。
仕事を終え、家に帰る途中も、翔太の目には次々と数字が浮かび上がっていた。通りを歩くサラリーマンや、コンビニの店員、交差点を渡る子供たち。全員の頭上にはそれぞれ異なる数字が表示されている。
「こんなことが毎日続くのか…?」
不安と疲れが重なり、翔太は頭を抱えた。だが、家に戻り、リビングで待っていたのは、笑顔で迎えてくれる美咲と菜々子だった。
「おかえり、パパ!」
菜々子が駆け寄って抱きつく。その瞬間、翔太は再び二人の頭上を見た。美咲も菜々子も、「0.0%」だ。
「良かった…」
翔太は思わず小さな安堵のため息をついた。少なくとも、家族に危険は及んでいない。この奇妙な能力に慣れることはないが、家族だけは守られているように感じた。
その夜、翔太は眠りに就くまでずっと考え続けた。この能力は一体何なのか、そしてこれからどう使うべきなのか。彼はまだ答えを見つけられないまま、深い眠りに引き込まれていった。