失礼な勇者を倒した武具屋のおっさん、繫盛して笑っちまう。
ここ最近、町の不穏な空気が濃くなっている。
年寄りや女子供が狙われてるってのに、騎士団は屁の役にも立たねえ。
だったらっていうんで、町の男どもが自警団を名乗って巡回してるが、犯罪はあちこで起きまくってる。
この町は、俺の生まれ育った故郷だ。
いてもたってもいられなくて、自警団に加わってはみたものの、どうにも違う気がした。
自警団というアイデアや、立ち上がった野郎たちに難癖をつけたいわけじゃねえんだ。
でも実際、自警団の野郎どもと話をしてて、考えさせられた。
自警団として男どもが家を空ければ、残された女子供が狙われちまう。
一人店番をするご老人が狙われちまう。
「町を守るのは俺らの役目だ。しかし家を守るのも俺らの役目」
誰かの言葉だったが、この役目って言葉が、妙に引っかかった。
俺の役目――。
大した人間でもねえ俺に、大したことはできねえ。
ただこの町への愛着と、同郷の人間たちへの仲間意識みたいなもんがあるだけの、普通のおっさんだ。
あとは、まあ……この町唯一の武具屋ってことぐらい、か。
それでピンと来たんだ。
他の野郎どもとは違った視点、切り口で、この町をどうにか助けらんねえか。
武具屋として――。
するとまあ、びっくり。
簡単に解決策が思い浮かんだ。
武具で自衛できるようになれば、家に残されたやつらも、自警団の野郎どもも安心できるじゃねえか。
うちに置いてある武具といえば……。
屈強な男が振り回す剣、獰猛な魔物から体を保護する防具、専門性の高い魔術杖。
これらは、一般人がホイホイ買えるほど安くはないし、扱うにも技術がいる。
だから、誰でも買えて、すぐ使えて、ちゃんと護れる。そんな護身具を作ることにした。
役目って言葉に悩んでたのがバカらしい。やっぱし俺は、生粋の武具屋ってことだな。
◇◇◇
そして俺は、身を護る装具である護身具を完成させて、本日ついにお披露目する。
この1週間一匹の男として、武具屋のおっさんとして、気持ちのいい汗を流したもんだ。
町のやつらにアイデアを聞きまわり、試行錯誤の連続。
試供品を配り感想も聞いて、改善したら、また試供品を配って。
それだけじゃねえ。
護身具完成後には、今までやったこともねえ、ビラ配りってのもした。
町の連中に知ってもらわなきゃ、売れるはずもねえからな。
久しぶりに、店内の片づけ掃除もした。
普段は、臭くて乱暴で喧嘩っ早い冒険者どもを相手にするから、乱雑で汚くたって気にしねえだろ。
でも護身具を買うやつは、この店を頻繁に利用する客層とは全く違え。
例えば家族、例えばご老人夫婦、例えば女性、こういうやつらがメインの客になる。
だから、ほこり一つねえし、店内はすっきりだ。
すっきりついでに、レイアウトにも凝ってみた。
護身具を買う人は、身を護るのに役立ちそうな「なにか」って具合に、買いたい物がぼんやりしているはずだ。武具屋とは縁遠い生活をしているやつらなんだから、そりゃ仕方ねえ。
そんなやつら向けに、わかりやすく陳列して、商品説明の札なんかも作ってみた。
ここまですりゃ、初めて見る護身具でもある程度理解できるはずだ。
それでも分かんねえなら、俺が説明する。それだけだ。
ここまで凝ると、自分の格好も気になってくる。
普段は剃らねえヒゲを剃って、髪も整えた。
いつもの冒険者崩れみたいな、粗野っぽい服はやめて、祖母の葬儀で着た燕尾服を引っ張り出した。
結構パツパツだけど、恰幅がいいぐらいにしか思わんだろう。
燕尾服と一緒に、クローゼットの奥にあった香水も、一応ふってみた。
だが臭う。なにが臭うって、店が臭う。
うちの店は、魔物の死骸を素材にすることもあるからかなりの悪臭が漂っていた。
そういうの、嫌うだろ? 普通の方は。
面倒くせえが、しっかりと換気してだな、薬屋から買い付けたハーブで、悪臭は掃討済みだ。
とにかく今日は家族とかご老人とか、女性とか子供のための日なんだ。
気合十分の準備万端。
軒先に人影はないが、まあこれから来るだろうさ。
営業中の札を出して、精算台の奥に座った。
「……おう! いや、これだとビビっちまうか。い、いらっしゃいませ~。うーん、気持ち悪いか?」
接客なんざ、気にしたこともねえが、今日ぐらいは気にしてみる。
「……いらっしゃいッ! なんか違えか」
絶対使ってほしい護身具なんだ。
自警団の野郎ども、家に残される年寄りや女子供連中が安心できる、いい商品なんだ。
暗い雰囲気の町を変えられそうな予感がするくらいの、な。
接客が怖すぎて、武具屋じゃあ買えねえなんてことには、させたくねえもの。
「いらっしゃい」
このぐらい愛想よくすりゃあ、ビビって帰るなんてことはねえだろう。
◇◇◇
カランコロン――。
「いらっしゃ……い」
開店して3分、来やがった。よりによって、あいつらかよ……。
キョロキョロと辺りを見回し、顔をしかめているやつらは、この町では有名な冒険者パーティーだ。
パーティーリーダーは転生者で、不死身の魔王を唯一殺せる【勇者】ってスキルを持ってる。そんで男1対女4の珍しい構成。
みんなが知ってる。
でも、物珍しさが有名な理由じゃない。
コイツらはとにかく……失礼らしい。
めちゃくちゃ調子に乗ってるというか、選ばれし者ってのを鼻にかけて、クソウザいってことで、この辺じゃあ有名な要注意人物になってる。
「この子に合うの短剣を見繕え」
いかにも奴隷の少女を指さして、パーティーリーダーと思しき男が、俺に指示を出してきた。
噂によると、勇者の野郎は16歳らしい。
俺よりも一回り下のガキが、偉そうに……。
とは思ったけれど、まあ我慢しよう。
いつもならば絶対に追い出してるけれども、今日は優しく穏やかな心持ちでいたい。
なんたって今日は、護身具お披露目の大事な日。
顔を真っ赤にしたままじゃあ、客が逃げちまって、町のためにならねえだろ。
だから我慢だ。
俺は裏の倉庫に行って、なんの気なしに剣を掴んだ。
それは安物の短剣――。
ずーっと売れないであった安物を、俺は本能的に掴んでいた。
「いけねえ、いけねえ」
ああいう手合いは、どうせ剣の価値なんかわかんねえ。
だったら安物を売り付けりゃあいいって……。
凝り固まった考えのせいで、体が勝手に動いてた。
首を振って悪感情を振り払い、まあまあ自信のある短剣と高価な短剣に持ち替えた。
精算台の上に並べて、文句ないだろ? と表情で語りかけたわけだが、勇者の野郎、鼻で笑いやがった。
「この子が奴隷だからって、バカにしてるのか?」
この店にあるものは、全部俺がこしらえた。
出来に満足いかない物もあれば、大満足で売りたくないもんだってある。
だが精算台に並べたのは、そこそこ自信があって、悪くない出来のもの。
いや、かなり自信がある代物だ。
見る目がねえ野郎に渡して良いもんじゃねえんだ。
それを……バカ……?
「ふう」
俺は怒りを追い出して、短剣を抜いてみせた。
中身を見ればきっと減らず口もなくなるだろうと思ってな。
シャキン――。
「……ゴミ、だな。王都の武具屋に比べて、質が悪すぎる」
「ぐっ」
「なんだ?文句か」
物心ついた頃には、クソ熱い炉を前にして鉄を叩いてた。
20年近く、武具を作ってきた。
武具を作るってことは、武具の使い方や使用感に対しても知識がなけりゃいけない。
だからこそ身をもって魔物と戦い、俺の作った武具でたくさん魔物を屠ってきたし、魔物の攻撃を受けてきた。
そして、自分の武具がいかに優れているか、一番よく理解している。
こんなヒョロいガキに言われずとも、質がいいってのは、魂がわかってんだ。
クソガキがよぉ……。
ゴミだぁ!?
短剣を鞘にしまい、精算台の上で拳を握りしめた。
――しゃあない。
こういう客は珍しくもねえ。
とにかく今日は、堪えねえと。町のために俺は、笑ってりゃいいんだ。そう、今日はな――。
俺は引きつった笑顔で言った。
「……すんませんね。また機会がありましたら、よろしくお願いします」
すると、勇者は鼻を鳴らして、出口へと向かった。
クソ小さくて、ヒョロい背中を睨みつけた。
どうにか怒らずにいられた。
ふと安堵したのも束の間、扉に手をかけた勇者の野郎は、吐きやがった。
絶対に許してはいけない、クソな言葉をな。
「さっさとこの町を出よう。肥溜めよりも価値のない町だ」
カランコロン――。
「肥溜め、だと?」
肥溜めよりも価値がない。
クソ、ションベンを溜め込んでる穴ぼこよりも、存在価値がねえってことか?
それともなんだ。
この町にいるよか、肥溜めに沈んだほうがいいってことか。
奴の真意なんざ、この際どうでもいい。
たしかに治安はよくねえし、ここ最近は犯罪が増えてやがる。
でもみんなこの町が好きで住んでるし、この町を良くしたいから自警団じみたこともするし、俺の護身具にだってアイデアを出してくれたんだ。
みんなこの町が好きで、この町に住んで、この町を良くしたくて、この町で頑張ってんだ。
それをよお、ふらっと立ち寄ったクソガキに罵られて、黙ってられるやつがいるのかってんだよ。
この町を……いや、この町を愛する住人たちをバカにされて、我慢できるかってんだ。
俺は精算台の下に備えてある、剣を引き抜いた。
駆けだしたついでに、陳列してある丸盾を片手に装備した。
今日のためにこしらえた、護身具の一つ。
目玉商品だ。
「おいこらぁ! 待たんかクソガキ!」
店から飛び出し、叫んだ。
「へ……」
なんと運の悪いことか、勇者パーティーとすれ違う親子をビビらせてしまった。
「あ、お、おめえじゃねえ。あっちのクソガキだ。ご、ごめんな」
「ママー」
「だ、大丈夫よ」
「二人とも離れよう」
完全に怯えた母子。
親父の方は、家族を守るべく母子の前に躍り出た。
「あんたらじゃねえ、向こうのガキだ」
親父に目配せをすると、どうにか意をくんでくれたらしい。
俺を警戒しつつも、通りの端っこに逃げていった。
立ち止まっている勇者パーティーの背中がよく見える。
……そして今気づいたのだが、今日はなんだか子連れの家族が多い。
こんな場所で大立ち回りなんかしたら、俺の苦労が、ここ一週間の努力が水泡に帰してしまう。
だが今更、引くに引けない。
そんな葛藤を胸に勇者の後頭部を睨みつけていると、奴はめんどくさそうに振り返った。
「俺?」
のんきな野郎の顔にむかっ腹が立ったが、残っていた冷静さが機転を利かせてくれた。
「お前に決まってんだろ! 町を侮辱したことを謝れ! 素直に謝れば許してやる」
俺にとっても、奴にとっても悪くない妥協案だろ。
戦う気満々の状態で、正直引くに引けない。
だけど、聴衆が多い中戦いたくもねえ。
いつの間にか、縋るように転生者を見つめていた。
「悪かった訂正しよう」
意外にも素直な態度を見せた勇者の野郎。
俺は一瞬、やつを見直しそうになった。
だがすぐに、やつが評判通りの男であると知る。
「クソな武器、クソな武具屋、クソな店主とくれば、この町はクソをため込む場所。つまり肥溜めと同じだな。肥溜めよりも価値がないって言葉は訂正する」
そういってやつは、鼻で笑った。
同時に、葛藤の天秤が、大きく傾く。
「もう我慢ならねえ。クソガキ! ぶっ飛ばしてやらあ」
シャキン――。
「みんな手を出さないでくれ。いじめになってしまうからな」
俺の怒りに、やつも応えた。
剣を抜き、笑ってやがる。
やる気満々のパーティーメンバーたちの動きを制して、余裕たっぷりの笑顔を浮かべている。
そして、突進してきた。
「勇者にケンカを売ったこと、後悔させてやる!」
見た目に反して、意外と攻撃的らしい。
ガギン――。
「ちっ」
丸盾でどうにか防いだが、勇者の動きは、さすがだった。
俊敏な身のこなし。
洗練された剣の太刀筋。
「防ぐだけか、クソ店主!」
ガギン――。
調子づいて、俺をあおる余裕もある。
勇者の名は伊達じゃないらしい。
だが、その手に握られた剣が、あまりにも……。
「剣の手入れしてねえだろ」
「ッ!?」
ガギンッ!
まばらに黒ずんだ剣。
かつて倒したであろう、魔物の血だ。
手入れしていないのがよくわかる。
今の音は、刃こぼれした箇所が盾にぶつかり、ブレードが悲鳴を上げたのだ。
あと数回で、やつの剣は――。
バギッ!
「はっ!? 剣が、折れただと」
甲高い音を立てて転がる刃。
短くなった剣を、呆然と眺める勇者。
「王都の武具屋が、どうとか言ってたな? もういっぺん言ってみろや」
勇者はムッとした表情を浮かべた。
「……お前なんか素手で倒せる」
あえて答えず、剣をしまった勇者。
俺と正対し、拳を握った。
期待した目から察するに、男なら拳で戦うだろうとでも思ってんだろう。
それがガキだってんだよ。
「これでも食らえ!」
円盾の持ち手部分に、魔力を流した。
「光だと!? ぐあっ、眩しい」
盾部分から高威力の光が放たれる。
その光をまともに見た勇者は、目を覆い、自分の視界をふさいだ。
この隙に逃げる。それがこの円盾の使い方。
それが護身具の、本来の用途だ。
しかし、このガキには、しっかりとお灸を据えなきゃな。
抜き身の剣を構え、これでもかと体をひねった。
全身に力を込めて、一気に振りぬく。
体重の乗った、渾身の一撃が、勇者の薄っぺらい腹にめり込んだ。
「げふっ」
ズザザザ――。
勇者は吹っ飛んだ。
ついでに、俺の手から剣も吹っ飛んでいた。
気合を入れて振り回したから、手からすっぽ抜けた。
幸いにも聴衆には当たらず、道に転がっている。
一方で勇者の方には、手を出すなと言われていたパーティーメンバーが駆け寄っていた
「殺した」
「死んだな」
「キャーッ」
騒然とする店前の通り。
俺の頭の中では、たった一つの言葉がじわりと大きくなっていった。
やってしまった。
「うわーん」
「大丈夫よ怖くない怖くない」
「死んだの?」
「い、いや、見ちゃダメだ」
泣きじゃくる子供を、なだめようとする母親。
吹っ飛んだ勇者を見て、呆然とする少年と父親。
これは、もう無理だ。挽回のしようがない。
いくら峰打ちだといっても、信じてくれなさそうだ。
仮に信じたとしても、暴力店主の汚名はぬぐえないだろう。
「大丈夫生きてるわ!」
「治癒魔法で治る」
「気を失ってるだけね」
パーティーメンバーが口々に言うと、聴衆たちも幾分かホッとしているように見える。
治癒魔法で勇者の傷が癒えていくのを眺めながら、口の中で苦いものが広がっていた。
1週間。
長かったようで短かった。
この町のために張りきった、久々に充実した時間。
今日のために、費やした労力。
全部パーだ。
「はっ!? うわああ」
「大丈夫、私たちよ! 落ち着いて!」
ぶっ飛ばされる直前の光景が焼き付いているのか、回復した勇者は取り乱している。
威勢よく人の気持ちを逆なでする悪どい顔はどこへやら。
やつのせいで、俺の1週間が無駄になったのだ。
追加で叩きのめしてやってもよかったが、俺の怒りもどこかへいったらしい。
未だ取り乱す勇者と、困惑するパーティーメンバーたちが、なんだか寂しく見える。
静まり返る聴衆たちも、きっとやつらに同情しているんだろうな。
ガキ相手に、おっさんがやりすぎたか。
今からなにをしても、俺の名誉は取り戻せねえだろうよ。
だったら、一言ぐらい言ってもいいよな。
通りの真ん中を歩き、勇者たちへと近づき、いつもの調子で声をかけた。
冒険者に接する、普段の俺で。
「二度とこの町を悪く言うんじゃねえぞ! いいな!」
しかし彼らは自分たちのことで精いっぱいだったようで、俺に驚いた。
特に勇者の驚きようは、たいそうなもので、ドラゴンを前にした羊のようだった。
ガクガクと震え、青ざめた顔で何度もうなずく。
「わかったならいい。どっか……ん?」
どっか行けと言いかけたのだが、口を開くのも嫌になるほどの刺激臭が鼻を突いた。
顔をしかめていると、俺と同じ顔をしているやつが4人。
勇者パーティーの女どもだ。
「くさ……」
「おえっ」
「まさか漏らし――」
「クソだ!」
女どもの言う通り。
この臭いは、クソだ。
ビビりすぎて、漏らしちまったか、勇者の野郎。
勇者の名は、伊達じゃねえな。
臭いも勇者級ですってか。
青かった勇者の顔は、みるみる赤くなり、もぞもぞと立ち上がった。
「か、帰りゅ!」
そう言うと、勇者走り去っていった。
色々と背負うものがあるのか、足取りはおぼつかず遅かったけどな。
「はあ」
俺も奴らの後を追って逃げ出したかったよ。
店に戻ったって、どうせ誰も来やしないんだから。
粗暴なおっさんが、子供といって差し支えない勇者を叩きのめした。
この構図を見た人々が、そのおっさんの店に入ると思うか?
俺は俯きながら扉に手をかけて、営業中の立て看板を睨む。
どうせ来ないんだから、今日は閉店して飲みにでも行こうか。
そんなことが頭をよぎるほどに、落ち込んでいた。
カランコロン――。
それでも営業は続けるしかない。
ビラを配って、大々的に宣伝したんだ。
万が一客が来ないとも限らんだろう!
気合を入れなおして店に入ると、背中に小さな違和感があった。
虫かと思って背中をかくと、また小さな違和感が。
「ちっ」
舌打ちをして背後に目を向けると、そこには少年が立っていた。
「はいこれ、忘れてたよ」
落ち込みすぎて、剣を道端に忘れていたらしい。
「あ、おお、ありがとな」
振り返って剣を受け取ると、少年の父親と思しき男がすすっと近づいてくる。
そして、ポケットから折りたたまれた紙を取り出して、俺の前で広げた。
「これ、まだ売ってますか?」
その紙はまさしく、俺が配りまくったビラだった。
そして父親が指さす商品こそ、俺が売りたかった護身具。
「あ、ある。あります」
何が起きているのか、事態の把握ができないまま、俺は何とか返事をした。
そしたら少年が言った。
「買いに来たんだ! 入ってもいいですか!」
「あ、ああ」
俺は扉を押さえて少年と父親を招き入れた。すると、父親だけが立ち止まって俺のほうに顔を近づけてきた。
「さっきのスカッとしました!」
親指を立てて、少年が待つ護身具コーナーへ。
彼らの背中を見て、俺はちょっとだけ安心した。
一週間が無駄にならずに済んでよかったなと。
カランコロン――。
そしたらまた客がやってきた。
さっき通りで泣いてた少女と母親だ。
「私でもその盾使えますか?」
「は?」
「その勇者殺しの盾、使ってみたいです。最近物騒じゃないですか」
「殺してねえんですけどね」
「あの勇者を半殺しにしたらよかったのに……。性能を見たかったです」
「はあ」
どうやら、通りで暴れたのも無駄じゃなかったらしい。
「ママー、お店キレイだね」
「そうだねー」
「アレ可愛い!」
「あ、待ちなさい、走っちゃだめよ」
少女が向かったのは、女性用に見た目をこだわった護身具の前だった
今まで言われたことがねえぜ。店がキレイだなんて。
少女のおかげで心が幾分か軽くなり、ぼんやりしていた感覚がクリアになっていくと、外の喧騒が強くなっていることに気づく。
扉にはめ込まれた覗き窓から外を見ると、そこには人の群れができていた。
子連れ家族や、ご老人たちが集まって、配ったビラと店の看板を見比べている。
「勇者の攻撃を防いだ盾を持っておるんじゃ。相当いい商品を扱っておるぞ」
「いいから来なさいって! ちょっと町への愛情が強いだけで、いい人なのよ」
「俺の案を採用した商品だからな。買わないわけにはいかん」
「試供品が良かったんじゃよ。トメさんも買ったほうがええぞ」
色んな言葉が、扉の向こうでは飛び交っていた。
ここ一週間の努力が報われた気がして、思わず笑みがこぼれた。
まあでも、一個だけ無駄だったことがある。
いい人ぶろうと、繕ったことだ。
付け焼刃がいかに無駄なのかってことは、武具屋である俺は一番知ってるはずなのにな。
カランコロン――。
「さっさと入んな、通りが詰まっちまうだろ」
そのまんまの方がいいや。
この町と武具の出来の良さは、俺が一番分かってんだから。
自信持って、ドーンと構えてりゃあいいんだ。
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人気あれば連載するぞと、作者は意気込んでおります。
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