8:裏切る理由。
やはり、というべきか、歓迎はされていませんでした。
「ワシは納得できん」
「ゲアトじいさん! 殿下の前だから……」
「いい。ゲアト、何が納得できないか説明しろ」
作業場に入り、イスを勧められて座ってすぐ、杖をついた白髪頭のおじいさんがダンと机を叩きました。
ヘンドリック殿下が理由を聞いてくださいました。
曰く、自国の技術を他国に売る者など信頼はできないということが主な理由でした。
「それは――――」
殿下が何かを言おうとして、こちらをちらりと見ました。ザンジルでのことを言っていいのかと悩まれているようです。
ここは自分の言葉で伝えたいとお願いしました。
「私はオーフェルヴェーク家に産まれ、家業に誇りを持っていました」
「ならばなぜ国や家族を裏切る! 自国の職人たちの技術を売るんじゃ!」
「っ――――」
分かっているのです。私は最低のことをしているのだと。
分かっているのです。私のせいで様々な人たちの未来を生活を奪うのだと。
それでも、やり遂げると決めたので。
「その大切な家族が、国に殺されました」
「「え……」」
「ありもしない罪を擦り付けられ、家業は奪われました。国を追われ、両親と妹は道中で死にました。いま私にあるのは、オーフェルヴェークで培ってきた知識だけです」
生きていくために、復讐するために、それらを使います。
私は地獄に落ちるのでしょうね。
「あ……あの、嫌なことを聞いてすみませんでした」
「いえ、大丈夫です」
中年の職人――ホルガーが申し訳無さそうに謝ってくれました。私こそ嫌な話を聞かせてごめんなさいねと言うと、もうひとりの職人が不機嫌そうな顔で「新たな技術を得られるんだ。そんなことはどうでもいい」とバッサリと言い切ってくれました。
「アヒム! お前はいつもっ」
「ホルガーさん、ありがとう存じます。でも、アヒムさんの言う通りなんです。どうか私の持っているものを有効活用する程度に受け取ってもらえるとありがたいのです」
「……お嬢様がそう言われるのなら。ゲアトじいさん、いいだろう? 理由は何であれ、俺たちに損はないと思うんだよ」
「フンッ。まぁいいじゃろう。小娘の知識なんぞたかが知れとるだろうがな」
集められた三人は、ヴァイラントで確かな技術を持っており、殿下が信頼している職人なのだと伺っていました。彼らを納得させ、技術をこの国で確立させなければ、他の職人たちにも広まらないだろうと。
先ずは一歩前進です。
話を聞いてもらえましたから。