61:責任を取る。
◇◇◇◇◇
ヘンドリック殿下から口の端に無理矢理キスをされました。「おやめください」とお願いすると、泣きそうなお顔をされてしまいました。
「っ………………話を聞いてくれ。頼む」
その言葉にコクリと頷くと、ヘンドリック殿下がぽつりぽつりと話し始めました。
ザンジルの王太子殿下であるジスラン様は、秘密裏に私を探していたこと。わずかな手がかりだけでもいいからと情報を集めていたこと。
それらを私に確認することなく無視し、ジスラン様の手紙を握りつぶしていたこと。
「君の権利を奪っていたんだ。すまない」
「っ……なぜ、そうしたのですか?」
――――聞かせて。
確信が欲しいから、もっと知りたいから、言葉にして教えてほしいのです。
「初めは正義感と庇護欲と打算。しばらくして気づいたのは、独占欲だった」
私の両頬を包んだままゆっくりと紡いでいかれる言葉。
「いらないと捨てたのにな?」
ヘンドリック殿下の手が震えています。
とても強い人だと思っていました。
いえ、心や身体が強いのは間違いないのでしょうが。
「ティアーナは私のものだ」
もの扱いしてすまない、と弱々しく呟かれました。
ヘンドリック殿下の伏し目がちにされた瞳を見つめます。
エメラルドグリーンの美しい瞳は、いつだって吸い込まれそうなほどに透き通っています。
「殿下、下を向かないでください」
「……」
「私を助けたのはヘンドリック殿下です。生きろと命令したのもヘンドリック殿下です。私の命の全責任はヘンドリック殿下にあります。手放すなど許しません。私の命が潰える最後の最後まで、責任を持ってください」
「っ……いいのか?」
キョトンとしたお顔が少年のようで、鼓動が少しだけ早くなった気がします。
「ええ。私、悪役令嬢なんですよ? ヘンドリック殿下がどんなに大変だろうと、どんなに苦しかろうと、知りません」
「……ん」
「私が聞きたいのは、愛しているという言葉だけです。それ以外は許しません。縋るようなキスなんてされたくありません」
そうお伝えすると、ヘンドリック殿下が満面の笑みをこぼして力強くキスしてこられました。
「こういうのは、許してくれる?」
「はい」
「愛している」
「はい」
「ザンジルになど渡さない」
「当たり前です!」
――――次、迷ったら許しませんよ?





