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6:ザンジルの研磨技術を。

 



 隣国ヴァイラントに来て一ヵ月。

 擦り傷などの軽いケガは完全に癒えました。

 脚はまだ痛みを訴えていますが、以前よりは随分とましになりました。

 足を地面につけて歩かないという条件で、松葉杖を使っての散歩程度なら動いていいと許可されました。

 

 そこで私がまずしたことは、図書館通いでした。

 この国のこと、歴史、風習、技術、それらを少しでも知るために。触り程度なら学んでいましたが、外からと中からでは印象が違いますので。


 ヴァイラントは世界の中でもかなりの強国で、ザンジルとの国力の差は大人と赤子のようなもの。

 それでもザンジルが友好的に扱われていたのは、宝石などの加工技術がどこよりも抜きん出ていたから。

 ザンジルは、昔からカラフルで細かな模様の機織り布が有名です。ただ、それを凌駕するものがひとつだけあります。

 我が領の宝石の研磨技術です。

 これに関しては、世界屈指と言っても過言ではないと思っています。ただ、ザンジルの石の質はそこまで良くないのです。そこで手を結んだのが、ヴァイラント。


 ヴァイラントの産出する宝石の質は驚くほどに高く、透明なものはどこまでも透明。カラーは色濃く不純物の少ない深みのあるものが多いのです。

 ザンジルが原石を買い取り、研磨をし、装飾品にして、世界に売り出す。という流れがこの三十年で確立されていました。

 

 私の持つ知識は見たものや聞いたものが基本ではあります。実務経験も技術も持っていない。

 それでも、お父様とともに視察に参加し、職人たちと話して教えてもらったことは、しっかりと覚えています。

 そして、誰にも話してはいけない、という約束も。

 お父様と私を信頼して教えてくれた職人たちを裏切る行為を今後することに、少しだけ罪悪感を覚えました。

 こちらで技術が確立されれば、彼らの仕事に対する金銭価値は落ちていくでしょう。

 

 ――――ごめんなさい。


 それでも私は成し遂げると決めたのです。




「殿下、研磨職人たちと話す場を設けて欲しいのですが、可能でしょうか?」


 夜、部屋に訪れられたヘンドリック殿下にそうお願いすると、彼はなぜか申し訳なさそうに笑いながら頷きました。


「もちろんだとも。明日の昼にでも召集しよう」

「できれば、加工場(かこうば)がいいです」

「分かった」


 じっと彼の顔を見つめていると、「なんだい?」と聞かれてしまいました。

 本当は、なぜ申し訳なさそうな、ちょっと困ったような顔で笑うのか気になっているのですが、なんでもないと答えてしまっていました。

 理由は自分でも分からないのですが、なんとなく今はまだ聞きたくない。そんな気分でした。




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『結婚前夜に義妹に婚約者を奪われたので、責任取ってもらいます。』

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このラブラブ具合、神じゃね?(*´艸`*)キャッ

2巻も、もりもりに加筆しています。(笛路比)
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