58:ティアーナの要求。
ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐き出す。破裂しそうに動く心臓を落ち着けるよう、深呼吸を繰り返しました。
静まり返った議事堂内を再度ぐるりと見渡します。
「両親と妹は、非業の死を遂げました。どれだけ恐ろしかったでしょう? どれだけ痛かったでしょう? どれだけ苦しかったでしょう? アロイス様に同じ恐怖を。それに連なる方々に、同等の報いを」
「――――ということだ。どうする? 国王」
いまだ私を庇うように立ってくださっているヘンドリック殿下。彼が低い声で静かにザンジル国王に問いかけました。
声だけ聞けばとても穏やかそうなのですが、彼から漏れ出る雰囲気は、燃えるような赤い髪と同じくらいの怒りを含んでいるような気がしました。
「――――っ、分かった。承諾する」
「「父上!?」」
アロイス様と第二王子殿下が、ザンジル国王に何かを訴えかけようとしていましたが、ザンジル王太子が手を払うような仕草をされました。
次の瞬間、騎士たちが彼ら二人を拘束し、議事堂の外へと連れて行きました。
「英断、感謝いたします。さて、交渉を始めましょうか」
私が求めたのは、今回の事件に関わった者たちに対しザンジルがどう対処するのか、どういう罪状にするのか、という報告書の提出。
そして、全てが明らかになったのちの、アロイス様の処刑。
ゆっくり、緩やかに、恐怖とともに生き、必ず死んでもらいます。
なぜ自分たちで調べないんだ? と、思っていそうな議事堂内にいるザンジル側の人々。明らかに不服そうなお顔です。
そもそも、なぜザンジル側がやらかした事件を調べるのに、ヴァイラントが労力を使わねばならないのか? と私は思うのですよね。
自分たちの尻くらい、自分たちで拭って欲しいです。
「期限は三ヵ月後としましょう」
「…………あぁ。全て呑む」
イスの背もたれに全身を預け、眉間を揉みながら力なくそう答えたザンジル国王。今の一瞬で十歳くらい老けたのでは? というほどに満身創痍な様子でした。
隣りにいたザンジル王太子は、なにか言いたそうな表情でこちらを見つめて来ています。
「では。良い報告を待っている」
一度ヴァイラントに戻り、またザンジルを訪れると告げました。
ここからは素早い撤退が求められます。
なぜなら、いま私たちを武力で押さえ付けて『事故で死んだ』とすれば、なかったことにもできますから。





