56:開幕。
ザンジルとヴァイラントとの契約の見直しと更新は議事堂で行われます。
参加するのは、ザンジル国王と第三以外の王子たち、ザンジルの宰相、我が家の事業を引き継いだ侯爵も。ヴァイラントはヘンドリック殿下と文官が二名、何かあったときのための精鋭騎士八名です。
そこに私も同席させていただきました。
参加自体は、ヴァイラント王太子の婚約者という立場だったこともあり歓迎していただけました。
「さて、契約更新だが――――」
足を組み、優雅に座ったヘンドリック様が、エメラルドの瞳を細めながらにこりと笑顔を作られました。
「――――我が国は契約終了とし、貴国との国交を終了する」
ヘンドリック様の落ち着いた声が議事堂内に響き渡りました。数秒の静寂のあと、ざわめきや鼓膜が破れそうなほどの怒号で音が溢れかえりました。
様々な立場の方々が言い争ったり、ヘンドリック様たちに話しかけては無視されていました。
それらが落ち着くのを数分待ち、ある程度落ち着きを取り戻したであろうタイミングでゆっくりと立ち上がりました。
皆様の目の前で、顔を隠していたベールをゆっくりと外します。
ざわつく議事堂内。
大きな口を開けてこちらを見ているアロイス様。
困惑した表情のザンジル国王陛下。
それぞれの反応をちらりと見て、にっこりと微笑みました。
「忘れられていなかったようで、ほっといたしましたわ」
「なぜ生きている!」
そう叫んだアロイス様と舌打ちしそうな表情の第二王子殿下。やはりこの二人は確実に黒ですね。
「あぁ、帰国途中で私が助けた。何か不都合でも?」
格上である国の王太子であるヘンドリック殿下がそう言うと、あろうことかアロイス様は彼を指差しながら非難しました。
「その女は犯罪人だぞ!? ソレを助けたと言うのか! しかも婚約者だと!? なんという裏切り行為だ!」
「…………ほぅ?」
ヘンドリック殿下の低く漏らしたその一言で、ザンジル国王陛下が立ち上がり、アロイス様に一切の発言を禁止しました。
「チッ」
ヘンドリック殿下が珍しく苛立っています。
格下の国の格下の地位の者にあんな風に侮辱されれば、誰しも腹立たしくはありますが、ちょっとだけヘンドリック殿下らしくないとも思ってしまいました。
殿下がジッとこちらを見てくるので何かと思いましたら、小声で「絶対にティアーナの考えてることは違う」と言われましたが、何を考えていたのか、どうして分かるのでしょうか?
「…………ずっと一緒にいたからな」
とても不服そうな声で言われてしまいました。さすがにこれ以上無駄話はできないので、答え合わせは後で、と言われてしまいました。
「さて、聡い国王と王太子は気付いているだろうが。ここはティアーナの舞台だ」
ヘンドリック殿下がクイッと顎を煽るように動かし、さあやれ、と伝えてきました。
ここからが本番です。





