54:夜会にて。
到着した日の夜、ザンジル王城の大広間で歓迎の夜会が開催されました。
今回持ってきたドレスは全て赤系にしています。
ヘンドリック殿下の髪色でもありますが、ドレスは戦闘服なので、赤なのです。
相手からは顔が見えないように作られたベールの隙間から、顔見知りを見つけるたびに、怒りのあまり吐き気をもよおしました。
家族を殺した者たちが、にこやかに笑いながら話しかけて来ます。楽しそうに歓談しています。美味しそうにワインを飲んでいます。
憎悪の感情しか湧きません。
「お久しぶりです、ヘンドリック殿下。以前は見苦しいものをお見せしてしまい、大変申し訳ございませんでした」
――――アロイス様っ。
笑顔で近づいてきたのはアロイス様。相変わらず人当たりのよさそうなお顔をしていますが、気持ち悪さしか感じません。
そして、隣で幸せそうに膨らんだお腹を抱え微笑んでいる女性も。
「やぁ、アロイス殿。謝罪は手紙でもされた。構わないよ。それよりも、そちらは?」
「妃のシモンヌです」
「では、あれから?」
あの悪夢の日の後に、結婚したのですね。そして、子どもまでも。
「ええ。再来月の予定です」
「それはそれは――――とても素晴らしい」
ヘンドリック様が口の両端をグイッと吊り上げ微笑みの表情を作りあげ、一瞬言葉を迷われたのを誤魔化していました。
「王子か姫か、楽しみですわね?」
「はい――――」
何も知らずにそうして、幸せそうに笑ってるといいです。
明日、地獄を見せて差し上げましょう。
心に大きな灼熱の炎を灯し、夜会の間ずっと笑顔で過ごしました。
ザンジル王城の部屋はヘンドリック殿下の隣でした。
ルネには大変な負担ではありますが、王城の使用人たちは私の部屋に入らぬよう伝えています。
気をつけはしますが、いつどこで顔を見られてしまうか分かりませんので。
「ごめんなさいね」
「大丈夫ですわ。さぁ、髪を乾かしましょう」
入浴を済ませ、髪を乾かしてもらいつつ、自分でできることは自分でするからとルネに話しました。
明日の昼は契約更新の会議に参加し、断罪劇を開催します。今夜はしっかりと休むと決めましたが、興奮し過ぎているのが自分でもわかります。
ちゃんと眠れるのか、少し心配です。





