50:講師たちと。
王妃陛下に合格をもらい、ホッとしつつ家に戻ると、玄関に養母と数人の講師たちが待ち構えていました。
どうやら、チューターやガヴァネスというよりは、専門分野の講師のようです。
「ティアーナ、王城からというか王妃陛下からよ」
「あ……はい」
気が早すぎます。
さっき王妃陛下に教育を受けるよう言われたばかりなのですが?
講師たちをサロンに案内しながら事情を聞くと、やはり王妃陛下からの強制召集でした。
「帝王学、社会学、マナー、ダンスの四人で、基本は毎日午前のみの二科目で組む予定です」
「わかりました」
「ダンスの際は、できる限り王太子殿下が来られるそうですが」
――――わざわざ?
「マナーとダンスにつきましては、履修し終えていらっしゃるようなので、ヴァイラント特有のルールなどを学ぶのみで大丈夫かとは思いますが。殿下はそれでも来られるそうです」
「あ……はい」
どこまで先回りしているのでしょうか。たぶん、私が断るだろうと踏んで、先にダンスの講師に伝えていたようですが、そんな時間があったようには思えませんでした。
「先ほど、早馬で手紙が届きました」
「っ、ご迷惑をおかけいたします」
「愛されている証拠ですよ。殿下にしては珍しく、乱れた文字でしたから」
ヘンドリック殿下は、見本のように美しい文字を書かれます。
誰でも読めるよう、見やすく綺麗な文字で、というのが信条のようで、以前にそんな話をしました。
帝王学の講師が手紙にあったサインをじっくりと見て「本物だ」と保証しなければならないほどに、字が乱れていたそうです。
「稀に偽物なども出回りますから」
「なるほど」
王族の名前を勝手に使ったりすれば、不敬罪や反逆罪になるのでは? と聞くと、全員がこくりと頷きました。
やはり、そこら辺はどの国も一緒なのですね。
それでも後を絶たないらしいので、恐ろしいものです。
「本日は顔合わせと、これからの予定決めをさせていただこうと思っております」
とりあえず全員と挨拶をしました。それから、私のことについて、簡単に説明も。
もし、何かしらの信条に反するなどあったら、辞退して構わないこと。そうしたことで経歴に悪影響を及ぼさないこともお話ししました。
「大丈夫ですよ。王妃陛下から説明は受けております。儂らは承知の上で来ております」
「っ、ありがとう存じます」
予想外、と言っては失礼かもしれませんが、王妃陛下の気づかいに心から感謝しました。
この機会を無駄にしないよう、真摯に取り組みたいです。





