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5:鬼になる。

 



 痛み止めの薬のせいで眠気が強く、日中も夜もうとうと。

 そうやって眠りに落ちては、夢の中で事故の瞬間を何度も何度も再体験する羽目になります。


 お父様が慌ててお母様を抱きしめ、私は妹と抱き合い、揺れる馬車かごに翻弄され――――響き渡る嘶きに紛れて聞こえた妹の呟きがずっと耳に残ったまま。


『死にたくない……ヨハンさま』


 うん、死にたくなかったよね。怖かったよね。

 ヨハン様に会いたかったよね。

 私たちと違って、相思相愛だった妹とその婚約者。

 ごめんね。

 巻き込んでごめん。

 私が生き残ってごめんなさい――――。

 

 夢だとわかっているのに。

 目覚める事が出来ないのか、目覚めたくないのか。

 夢の中でもいいから、笑っている三人に会いたいと思うのに、いつも苦しんでいる瞬間。

 あの、瞬間。


 薬での眠気のせいなのか、眠りがとても浅く、夢現でうなされていました。

 そんなとき、ふわりと温かい何かに頬を撫でられました。


「――――泣くな」


 ぽそりと聞こえたのは、低く柔らかな声。聞き覚えのあるその声の主は、ヘンドリック様だろうなと思うものの、目蓋を押し上げることが出来ずにいました。

 浅いのに、強い眠気。普段なら起きれるはずなのに。


 何度も優しく頬を撫でられ、流れているのであろう涙を拭われました。

 今はたぶん深夜に近い時間。

 自分の部屋に男性が入ってきて、ベッドの側にいて、勝手に触れてきている。

 普通なら、飛び起きて叫ばなければいけないのだと思います。でも、そうする気にもならないし、むしろ嬉しいとまで思ってしまいました。

 

 彼の温かな手で撫でられた瞬間、悪夢は消え去ったから。

 彼の声が驚くほどに優しいから。

 

 この気持ちは――――気付いてはいけない。

 縋り付いてはいけない。

 依存してはいけない。

 自分の立場を、忘れてはいけない。


 だから、今は深く眠ってしまいましょう。

 何もかも、夢にして、目覚めたら鬼にならねばならないから。

 

 弱いティアーナはあの馬車で死んだ。今生きているのは悪役令嬢のティアーナ。

 復讐こそが是の鬼――――。




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◇◆◇ 書籍化情報 ◇◆◇


『結婚前夜に義妹に婚約者を奪われたので、責任取ってもらいます。』

☆ 2巻 6/20発売 ☆

書籍表紙

なんと!
超絶素敵な表紙絵を描いてくださったのは、『おの秋人』様っ!
このラブラブ具合、神じゃね?(*´艸`*)キャッ

2巻も、もりもりに加筆しています。(笛路比)
フェルモたんの話とか、子供たちとかもちょい出てくるよ☆
ぜひぜひ、お手元に迎えていただけると幸いです。

各種電子書籍サイトで販売されますが、一例としてリンクボタンも置いておきます。


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