49:出来上がった宝石たち。
対王妃陛下用の宝石を持って、ヘンドリック殿下と小サロンに入りました。
王妃陛下が来られるまでもう少し。
たぶん。
「……来てくださいますよね?」
「最高権力を投入したが。あまり期待は出来ないんだよな」
「ええ?」
ヘンドリック殿下がテーブルに肘をつき、そこに顎を預けて「期待というか、役に立たないんだよ」とため息交じりに呟かれました。
二人でいると、こういった緩い格好をしてくださるのが、とても嬉しいです。
「聞こえてるが!?」
「あぁ、連れてこれたんですね」
「国王に対して酷いなぁ」
「国王の前に、妻を制御できない父、でしょう?」
「くっ……」
王妃陛下の手を引っぱって現れた国王陛下が、しょんぼりと肩を落としてしまいました。
エスコートというよりは、手首を掴んで引っ張って来たような雰囲気なのですが。というか、王妃陛下のお顔が…………なんというか、凄いのですが。
「不機嫌そうですが?」
「連れては来た」
「…………その程度ですよね」
「くっ! 反論できん!」
ツンとそっぽを向いた王妃陛下をよそに、国王陛下とヘンドリック様が何やら言い合いをしていました。
「あの、こちらに――――」
「…………見せなさい」
「あっ、はい!」
席を勧めると、不服そうではあるものの座ってはくださいました。どうやら宝石は見てくださるようです。
「先ずはネックレスから」
ブリリアントカットをした大粒のダイヤを中心にし、マーキースカットという両側の尖った楕円のような形のエメラルドで囲い花と葉が連なるようなデザインのビブネックレスにしました。
エメラルドは色が少し浅めのものを数色。ダイヤの透明感を目立たせるために。
「あら。ふぅん?」
「次にブレスレットです」
ブレスレットは、小さなステップカットのエメラルドで手首を一周させ、美しい雫型のブリオレットカットしたダイヤをひと粒だけ垂らした大人しめのデザインに。
「最後にイヤリングです」
丸皿付きのクリップタイプで、丸皿の部分には、極小粒のダイヤを花のように配置したもの。そこから下に細いチェーンを繋ぎ、ペアシェイプカットしたエメラルドがゆらりと揺れるようにしました。
エメラルドの色は、国王陛下の瞳とほぼ同じ色に。
「……………………ふぅん」
無表情の王妃陛下が、一番に手に取ったのは、イヤリング。
もともと着けていたイヤリングを外し、ポイッと侍女に渡しました。お渡ししたものを耳に着け、侍女に持たせた鏡を覗き込み、少しだけ表情を緩ませていました。
「それから、カットの際に出た小さな石で、日常使いできそうな髪飾りをいくつか用意しました」
せっかく用意してもらった石です。できるだけ無駄にしないために、三人と色々と話し合いながら作りました。
王妃陛下がお渡しした宝石たちの入った箱をそっと閉じました。
「オーフェルヴェーク男爵の働きに期待してるわ。妃教育もちゃんと受けなさいな」
「っ、はい!」
王妃陛下はイヤリングを着けたままで、残りの宝石たちを侍女に持たせて颯爽と立ち去られました。
「合格したんでしょうか?」
「ん。満点だ」
「っ、よかった」
本当に、よかったです。
やっと少し進んだ、という気分ではありますが、それでも前に進みましたから。





