47:抱いた感情。
怒らせてしまったと思いました。
だって、ヘンドリック殿下の声がどんどんと低くなり、小さくなっていくから。
「それなのに、嫉妬だと?」
「っ…………はい」
「――――可愛い」
「はい?」
「いや、本当に、可愛い」
「えぇっと?」
ヘンドリック殿下が絡めていた指を解き、ぎゅっと抱きしめてこられました。
「不安にさせてすまない」
そして、ヘンドリック殿下が語ってくださったのは、王族という立場でしか見えてこないようなものでした――――。
膨大な量の好意にも悪意にも、晒され続ける人生だ。
生まれながらにして強国の王太子という立場。
幼い頃は誰からも愛されていると思っていた。自国の民も他国の使者や王族でさえも、皆がにこにこと笑いかけてくる。様々な話を聞かせてくれる。
成長するにつれ、その裏にあるものが少しずつ見えてきた。
小さな好意は、将来を決めるかのような大事に扱われる。
お茶会などでご令嬢と少し楽しく話せたなと思った翌日には、その相手の家から婚約の話が舞い込んで来てしまう。断るとなぜあんなに楽しそうに話しかけたのだと相手に問われる。
ただ、世間話をしただけだった。出されていた菓子はどれが好きかと聞かれて答えると、一緒だと言って奇遇だなと笑っただけだった。
そうした思春期を通り過ぎ、大人になり、自ら結婚を望む気にもなれず、淡々と執務をこなすのみ。
父と母が大恋愛の末の結婚だったせいか、いつか契約結婚はしてもらうかもしれないが、そのいつかが来るまでは口煩くは言わないでおく、と父が言っていた。
私は、契約結婚で構わなかった。
誰も愛せそうにないから。
だから、誰から好意を寄せられても、一方通行であり、受け取ることはなく、欲しいとも思わない。
ありがたいとは思うが、それだけだった。
メロディはメロディで、それ以上にもそれ以下にもなることはない。ただの、妹のようなもの。
好きだと言われても、『ありがとう』以外は思うこともない――――。
ヘンドリック殿下に抱きしめられていて、殿下のお顔が見えません。淡々と話されていたので、余計に感情が読み取れませんでした。
「ただ、例外は存在するのだと知った」
「例外ですか?」
「ティアーナ、君だよ」
首筋から顔を上げた殿下に、また唇を塞がれてしまいました。
「ん……っ」
「嫉妬されて、嬉しいと思ったのは初めてだ」
ヘンドリック殿下が『嬉しい』、『可愛い』、『もっと聞かせて』とバードキスを繰り返す間に何度もおっしゃいます。
「嫉妬は……醜い感情ですから。あまり話したくはないです」
自分の中で処理したいのだと伝えると、少し残念そうにされてしまいました。





