43:思い知る。
ハンバーガーを食べ終えると、デザートが運ばれてきました。
「お待たせいたしました。ヘディはこっちね」
――――また、ヘディ。
「ん? 別々のものか?」
「これ、好き嫌いが分かれるじゃない」
「うーん。まぁな」
ヘンドリック殿下の前にタルトシトロン――レモンタルト――が置かれました。
そして私の前には、ドーム型のフォンダンショコラ。
「ティアーナはフォンダンショコラか。熱いから気を付けて食べるといい」
「……はい」
なんとなく心にモヤを張ったまま、フォンダンショコラにスプーンを入れると、中からトロリとチョコレートが流れ出てきました。
横に添えられているクリームを少し付けてから、口に運びました。
「んっ……美味しい」
口の中に濃厚でいてするりと溶けるビターチョコレートが広がっていきました。クリームがしっかりと甘いので、チョコレートの苦みを包み込んで、『美しい』と思えるほどに融合していました。
モヤモヤしながら食べてしまったものの、フォンダンショコラは感動すらするほどに美味しくて。
雄大な景色を見ながら食べていたら、なんだか自分の心の狭さを思い知らされるような気分になりました。
「とても美味しいです。連れてきてくださって、ありがとう存じます」
「ん。気に入ってくれたかい?」
「そうですね」
緩く頷いて視線を景色に戻し、フォンダンショコラの苦みを噛み締めました。
――――甘くて、苦いわね。
食事を終え、マノンさんと従業員の女性に挨拶して、馬車に乗りました。
私のエスコートをしたあと、ヘンドリック殿下が馬車に乗り込もうとした瞬間、女性が声を掛けてきました。
「ヘディ、また来てね。もっと腕を磨いておくから」
「ん。今日のタルトシトロンはなかなか美味しかった」
「やった!」
飛び跳ねそうなほどに喜ぶ女性と、後ろで苦笑いをしているマノンさん。
三人だけの世界。
彼の大切な場所には、まだ踏み込むべきではなかった。
紹介してもらえたこと、見せてもらえたこと、話してくださったことは、とても嬉しかったです。
けれど、殿下には殿下の今までがあって、そこには色んな愛や好意があって、それを受け止められる度量がまだない私には、とても苦いものに思えてしまいました。
――――心が、狭いわね。
ゆっくりと走る馬車の中。
窓の外を眺めながら、久しぶりに家族を思い出していました。
「ティアーナ?」
「はい?」
私の顔を覗き込むように首を傾げた、心配そうなお顔のヘンドリック殿下。
横髪がスルリと流れ落ちたので、サラサラの赤い髪に手を伸ばし、少しだけ手櫛をして左耳に掛けました。
殿下がきょとんとしたあと、みるみるうちにお顔が真っ赤になっていきます。
「っ! いや、それどころではないんだが…………ティアーナから触れてくれて嬉しいよ」
その言葉に、でも、が続きました。
「何かあったのなら、話してくれると嬉しい。考えていること、思っていることは、言葉にしないと伝わらないから」
「っ…………はい」
本当に私は心が狭いなと、思い知りました。
ヘンドリック殿下の大切なものを私も愛したい。だから、聞くべきなのですよね。





