42:ヘンドリック殿下が抱えているもの。
サワサワと優しい風に吹かれながら、景色に目を向けました。テラスからは王都とその後ろに広がる高い山が望めます。
雄大な自然と人々の営みが一緒に見れるところが、ヘンドリック殿下のお気に入りなのだとか。
風になびく赤い髪をリボンでまとめ直しながら、教えてくださいました。
「時々ここで王都を見て、自分が背負うものを再認識するんだ。私は王太子であり、次期国王なんだとね」
何か大きな変化が訪れるとここに来て、王都を見て気合を入れているのだとか。
「お待たせいたしました」
ヘンドリック殿下と王都を眺めていましたら、マノンさんと従業員の女性が、ランチプレートを持ってきました。
みずみずしいリーフサラダと、拳のようにまん丸なハンバーグ、こんがりきつね色に焼かれたくるみパン。
「パンを半分にしてハンバーガーにしてもいいし、そのまま食べてもいいわよ。ヘディはハンバーガーにするだろうから、先に切り目を入れてるわよ」
「ん。ありがとう」
――――ヘディ。
従業員の女性はどことなくマノンさんに似ているけれど、娘といった年齢ではなさそう。お孫さんなのかもしれませんね。
ヘンドリック殿下がハンバーガーにしたほうが美味しいんだよ、と言われたのでそうすることにしました。
ナイフでくるみパンを横に切り、バターを塗る。下側のパンにサラダをこれでもかと乗せ、その上に拳骨大のハンバーグをドフリと乗せました。
サラダに優しく包まれたハンバーグに専用のソースを掛け、上側のパンをそこに乗せる。
「両手でしっかりと持ち、がぶりと齧り付く」
「持って、がぶり」
言われたとおりにすると、ハンバーグから肉汁がジュワリと溢れ出し、下側のパンに吸い込まれて行きました。
鼻腔に広がるしっかりと焼かれたお肉の匂い、香ばしいくるみパン、全てをまとめ上げる特別製のソース。
それぞれがしっかりと仕事しています。
まるで、最初からハンバーガーとして作られたもののよう。
「んむっ! ……おいひいでふ」
「だろう?」
ヘンドリック殿下がニヤリと笑いながら、ハンバーガーに齧りつきました。
二人でハンバーガーを食べながら、また王都を眺めました。
王都は少し高い壁に囲まれているのですが、とても綺麗な円形状になっています。
「王城はちょうど真ん中にあるのですね」
「ああ。五代前の王が遷都して今の王都になったんだ」
元々は奥に見える山の向こう側の麓に王城があったのだとか。山に王城の背を守ってもらう形になっており、その麓に王都が広がっていたのだとか。
「歴史書で見ました。たしか昔の王城はまだ残っているとか」
「ん。今は避暑地のような扱いになっているな」
「麓に広がっていた町はどうなったのですか?」
そこは歴史書には書かれていませんでした。
ただ『遷都した』とだけで、それ以外は何も。
「ほとんどの家は崩されたが、小さな村のような状態で、今も住んでいる民がいる。主にワイン造りをしているかな」
「ワインですか」
ヘンドリック殿下が、いつか旧城も一緒に見に行こう、と言われました。
もちろんですとお答えすると、嬉しそうに「約束だ」と破顔されました。





