41:立ち寄りたい場所。
ちょっとおしゃべりを楽しんでから、宝石をしっかりと受取り、馬車に乗り込みました。
必ず良い結果をもぎ取ってくるから、と約束して。
「このあとは何か予定はあるかな?」
「いえ。何もございませんが」
「ん。少し立ち寄りたい場所があるんだ」
ヘンドリック殿下が、馭者に小声で何かを伝えると、馬車がゆっくりと走り出しました。
どこに行くのですかと聞くも、秘密なのだとか。
ヴァイラントに来てやったことといえば、家族の埋葬と、図書館通いと、研磨工場通い。観光をする暇はなかっただろうと聞かれました。
「たまに見たくなる景色なんだ。付き合ってくれるとありがたい」
「はい」
馬車をゆっくりと走らせて一時間。
家のある別荘地を抜けた先にある小高い丘と山の間のような場所に、こぢんまりとした小屋がありました。
そこはカフェのようになっており、ウッドデッキにはテラス席もありました。
ほぼ満席に近い状態で、テラス席のひとつだけにリザーブの札が置いてありました。
予約されていたのかと聞くと、ちょっと違うとのことでした。
「王族用の席でね。来ない時は誰でも使ってていいと言ってるんだが」
「使っていたら、今日は誰も来ないのかとがっかりされるでしょう? 使っていないなら、もしかしたら? と。夢を売るのも仕事ですよ。いらっしゃいませ」
この店のオーナーだという年配の女性が柔らかく微笑みながら、メニューを渡してくださいました。
王太子殿下が来たというのに特に慌てもせず、落ち着いているし、他のお客さんと接客態度も変えない。
周りのお客さんも一緒で、ちょっと華やぎはしたものの、必要以上に反応もしないし、我先にと話しかけてくることもない。
殿下もお知り合いらしい方には、手を少しだけ挙げて軽い挨拶のみ。
なんというか、肩肘張らずに過ごせそうな、とてもアットホームな場所でした。
「昼食とデザートを。マノンのおすすめでいい」
「まぁ、ぼっちゃま! でいい、ではないでしょう?」
「……ぼっちゃまはやめろ。マノンのおすすめがいい。彼女に食べさせたい」
「はい。上出来です」
マノンと呼ばれたオーナーがくすくすと笑いながら、飲み物の希望を確認してから立ち去りました。
「お知り合いなのですか?」
「ん。乳母だ」
「とてもよい関係なのですね」
「そうか? 口うるさいだけのばあやだがな」
そう悪態をついたヘンドリック様のお顔は、とても優しいものでした。
この場所とマノンさんは、彼にとってとても大切なものなのでしょう。





