40:男たちの趣味嗜好。
三人の誇らしげな顔、煌々しい宝石たち。
どちらも同じくらいに光り輝いています。
「っ…………ありが、とう」
お礼を言おうとした瞬間、胸がギュッと締め付けられました。
三人が、人としてあまりにも凄すぎます。
ぽっと出の小娘の言う事に耳を傾けてくれたし、たゆまぬ努力を毎日のように続け、休みの日もカット図案を描いたりしていた。
そうして出来上がったものを、笑顔とともに手放して、使っていいと言ってくれる。
「貴方たちの努力を絶対に無駄にしないわ」
ぽろぽろと涙が落ちますが、それでも必死に笑って言葉を紡ぎました。
「ありがとう。三人が大好きよ」
「「っ!?」」
「他意はなかろうが!」
ゲアトが私の横にいるヘンドリック殿下に向かって、なぜか慌てたように叫んでいました。
どうしたのかしらと、視線を横に向けると、なぜか剣呑な雰囲気の殿下。
「どうされたのですか?」
先ほどまでは殿下も笑顔だったような気がしたのですが。殿下は気にするなと言いますが、三人の顔が真っ青になりつつあるのも気になります。
「天然とはこう――――いでっ」
「アヒム!」
ホルガーが慌てたように、アヒムの膝裏に蹴りを入れて転けさせていました。
温厚なホルガーが、人を蹴りました。
「ホルガーも、今日は何か変よ?」
「気のせいです」
あまりの驚きに、涙が引っ込んでいきました。
連日無理をさせすぎてしまったのでしょうか?
休養はしっかりと取ってとお願いはしていたのですが。
「伝わらんのぉ。というか、伝わらんようにしてるのか?」
「可愛いから……放置で」
「放置て」
「「わからなくはないが」」
なぜか四人がササッと集まって、もそもそもと話し始めてしまいました。
アヒムは、わからなくはないが早めに手を打て、とか言っています。
ゲアトは、勝手にせい巻き込むな、とちょっと怒っています。
ホルガーは、にこにこ笑いながら若いねぇ、と頷いています。
「あの……」
「ん?」
「何か問題が発生したのなら、教えていただけると……」
「ああっ、すまない!」
ぽつんとひとり佇んで、四人を見つめていましたが、なかなかお話が終わりそうにないので、そっと声をかけてみました。
ヘンドリック殿下が慌ててこちらを向いてくださったので、意図して会話から排除されたのではないのだとホッとしました。
申し訳なさそうなお顔でヘンドリック殿下がもう一度謝ると、なぜか額にチュッと軽く口づけをしてこられました。
「ひゃっ!?」
「男たちの馬鹿な趣味嗜好の話だ。気にしないでくれ」
「よくはわかりませんが、お話は終わられたのですか?」
「ん。ごめん」
キュッと抱きしめられて、ちょっと嬉しかったのですが、人前ですのでと胸に手を当て押し返すと、すこし残念そうなお顔をされてしまいました。
「砂糖を吐きそうなやり取りは、人のいないとこでやってくれ」
「アヒム!」
「ふはは。お前のとこは夫婦喧嘩中だそうだな?」
「チッ!」
ヘンドリック殿下が私を抱きしめながら、アヒムを煽っていました。
アヒムって結婚してたのね? というか、結婚できたのね? なんて失礼なことを呟いてしまって、工場の中が大きな笑い声に包まれました。





