39:ヘンドリック殿下からのメッセージ。
週末、ヘンドリック様からご連絡がありました。
工場から製品が完成したと報告があったから、明日大丈夫であれば、一緒に確認しに行こうというメッセージカードと、花束を持って来てくれた従僕の少年に、お礼を言いつつ返事をお願いしました。
「いつもの時間に、現地でお会いしましょう、とお願いね」
「え……あっ……………………その、明日が大丈夫なら明日のお時間を、明日以外であれば……その、その日の大丈夫な時間のメモがありまして……………………その、こちらにお迎えに来ると…………」
「工場は中間地点だから――――むぐっ!?」
現地集合のほうが時間の無駄になりません、と伝えてもらおうとしたのですが、養母に後ろから口を塞がれてしまいました。
「明日は何時!?」
「えと…………十時とのことですが」
「お待ちしております、と嬉しそうに微笑みながら返事されました。と伝えなさい」
「え……」
「伝えなさい」
養母のものすごくドスの利いた声に、少年が飛び上がりながら「承知しました!」と叫んで走り去ってしまいました。
「えぇ?」
「ティアーナ!」
「っ、はい」
正面に回ってきた養母に、てっきり怒られるものだと思っていたのですが、養母は両肩に手を優しく乗せてきました。
「いい女はね、男を傅かせるものなの。たとえ王太子だろうと、たとえ時間の無駄だろうと、迎えに来させなさい」
「傅かせる……」
「そう!」
養母が拳を握って更に力説するので、これは逆らわないほうがいいやつなのだと理解しました。
養父と何かあったのでしょうか?
ちょっとだけ気になります。
翌日の十時、少年が言っていた時間にヘンドリック殿下が来られました。
お迎えに来ていただいたことにお礼を伝えると、破顔して柔らかく抱きしめられました。
「従僕から私に逢いたそうにしていたと聞いた。私もティアーナに逢いたかったよ」
――――尾ひれがついてますが!?
一緒に玄関で出迎えていた養母をちらりとみると、殿下に見えないように、こっそりとガッツポーズをしていました。
大変満足そうなのはいいのですが、なんだか騙しているような気分になって、胃に悪いです。
馬車に乗り込み、人目がなくなってから、ヘンドリック殿下に真実を話すと、少ししょんぼりとされてしまいました。
「いえ、お逢いしたかったのは、事実なのです。ただ、お手を煩わせるのが申し訳なくて」
「私に逢いたかった?」
「それは、もちろんです」
今までは、同じ場所にいましたし、隣の部屋からヘンドリック殿下の気配も感じられていましたから。
やはり、少しの淋しさは覚えてしまうなと、ベッドに入るたびに思っていましたから。
そうお伝えすると、ヘンドリック殿下が両手でお顔を覆い「可愛いが過ぎる」っと呟かれました。
これは、喜ばれているのですよね? たぶん。





