38:職人たちの今後。
婚約式から三日後、宝石研磨の工場に来ました。
王城から通うのとあまり変わらない距離でホッとしています。
「しばらく来れなくてごめんなさいね」
「いえいえ。そんなことよりもご婚約おめでとうございます」
「ありがとう」
三人におめでとうと言われると、なんだか心がじんわりと温かくなります。きっと、ヴァイラントに来てできた初めての仕事仲間といった想いがあるからなのでしょう。
「指輪、作ってくれてありがとう。すごく無理をしたんじゃないの?」
「ふん。ワシらの能力を侮るでないわ。チョチョイのチョイじゃ」
ゲアトがツンと顔を背けてそう言いましたが、なんとなく照れているのが分かるので、素直に「ありがとう」ともう一度言うと、さっさと仕事の話をするぞ! と怒られてしまいました。
ホルガーはくすくす笑って、アヒムは呆れ顔。この三人といるのはとても楽しいです。
「王妃陛下の方の進捗は?」
「石は作り終えたからな、あとは金属加工待ちじゃ。週末には納品されるじゃろう」
「それで、その間は技術を更に広めようってことになりました。午前は自身の仕事、午後はこの工場で研修会する日を週二回で開催することにして、各工場に伝達しています」
ホルガーが現在それに参加表明している者のリストを見せてくれました。
十名。
多いのか少ないのか微妙なところです。
この国にいる、研磨職人は五十名だと聞きました。
「かなり多いと判断していい」
「そうなの?」
「ええ、アヒムの言うとおりです。高齢の者、まだまだ新たな技術を入れるには早い者、それらを除いての十名ですからね」
アヒムがホルガーの説明に深く頷いていました。
「これからどんどんと忙しくなってきますよ」
「私が教えられることは少ないのよね。ザンジルの職人たちなら、もっと――――」
――――あ。
なぜ今まで気付かなかったのでしょうか。職人たちをこちらに呼び寄せれば…………って、違う!
呼び寄せたとして、彼らの生活や仕事を保証はできないから、考えないようにしていたことを思い出しました。
でも、それができれば、あちらには大きな打撃だし、こちらは得るものが途轍もなく大きい。
ただし、ザンジルとは縁を切ることになる。
家族、親族、大切なものがある人は多い。
現実的ではないのかもしれない。
でも、今のままでは、ザンジルの職人たちの生活は脅かされるばかり。
どこまで手を差し伸べ、どこまで切り捨てるのか、慎重に考えていかねば、取り返しのつかないことになってしまいます。
「彼らをこちらに誘致したいけれど、リスクも大きいから、もう少し計画を練ってみるわ」
「来てもらえるとええのぉ。生活の為にもな」
「そうね」
ゲアトは理解していたようでした。ザンジルにいる職人たちの今後を。
だからこそ、初日のあの態度だったのでしょうね。
今回のことに関しては、全員が幸せになる方法などありはしないのだ、と心に刻みました。
この気持ちは忘れてはいけないと思うので。





