37:侍女――ルネの立ち位置。
ルネはヘンドリック殿下とあまり変わらない年齢です。結婚していたり恋人がいる様子もなく、王城の使用人棟に住まい、ほぼ毎日のように側付きの侍女として働いています。
ヘンドリック殿下いわく、大家族である侯爵家の末の子なのだとか。
さすがに侯爵家ともなれば、侍女をする地位ではないという認識だったのですが、王族に仕えるのであればそのくらいは必要なのでしょうか?
「そのね、ただの興味だから言いたくなければ、それで構わないの――――」
ヴァイラントでは、王族側仕えの使用人たちは伯爵家以上ではないといけないのか、と聞いてみました。
「……いえ。どのような地位でも採用されています」
「そうなのね。ルネはなんで働こうと?」
「家が貧しいので」
――――え?
「侯爵家よね?」
「ヘンドリック様に聞かれたのでは?」
ルネが怪訝な顔をして聞き返してきました。初めて見る表情です。いつも麦穂色の髪をぴっちりとまとめ、表情を崩さないのに。
「大家族だということしか聞いていないわ」
「兄と姉、私を合わせて十五人おります」
「じゅっ……」
各々の散財癖と支度金で、ルネが十になる頃には、ほぼ没落しかけていたそう。兄や姉たちを見続けているうちに、結婚に興味も希望も抱けなくなり、働きに出ることにしたのだとか。
「そうだったのね。話してくれてありがとう」
「私からも……お聞きしても?」
「ええ」
ルネの鋭く光るような視線に、自然と背筋が伸びました。
「ティアーナ様は、ヘンドリック様を利用したいのですか? 利用したくないのですか?」
「え…………」
「どちらか分からないときがあり、サポートしづらいと思っていましたので」
サポートはどっちの? と思っていましたら、私のだと言われました。
ルネは殿下にどれだけ不利になろうとも、私の思う通りに動くよう、殿下本人に言い含められているのだとか。
普通に考えると、いらぬ発言で言質を取られたりなどの危険があるので、明言は避けるのが基本です。
ですが、ルネにはちゃんと答えたい――――。
「どこまでも利用するわ、そう約束したから。好きな人たちを巻き込んでしまう悔しさが拭えないだけなの」
「承知しました」
ルネが深々と臣下の礼をとりました。そして、どこまでも利用する方向で動きますとキッパリと宣言されました。
私より、ルネのほうが芯が強い。そう思ったのですが、ルネが自分には人を愛する気持ちがわからないので、と付け加えました。
彼女には彼女の人生があり、過去に何かがあったのでしょう。ただ、今はそれは教えてはくれなさそうです。
荷物の片付けを再開するルネを見つつ、いつかまたこういう話ができたらいいなと思いました。





