36:養父母の屋敷で。
養父母の屋敷――今日から私の実家になる屋敷で、家族全員で夕食を取ることになりました。
荷物はその間に使用人たちが片付けてくれるそうです。
「さて。ティアーナ、我が家へよく来てくれた。しばらくの間ではあるだろうが、家族水入らずで過ごそう」
「はい。ありがとう存じ…………ありがとう。お父様」
必要以上の敬語はいらない、と言われたのを思い出して言い直しました。
「っ、くっ! いい! 娘って、いい!」
「ずるいわよ!? お母様も言ってちょうだいよ!」
「え、あ、はい。お母様」
「んーっ! いいわね…………」
お二人の良く分からない反応にちょっと困っていましたら、隣に座っていたアンヌ様がこっそり教えてくださいました。
お二人とも、次子を望んでいたものの恵まれず、ムサい息子がひとりしかいないことを淋しく思われていたのだとか。
「ムサい?」
セザールお兄様をちらりと見ましたが、養父譲りなのか体格はとても良いものの、青みがかった黒髪は、両サイドを短く切りそろえて爽やかな雰囲気ですし、お顔立ちもとても整っています。
服装も最近の流行りをしっかりと取り入れられています。
「昔はねぇ、ムサムサモサモサムキムキヒゲモジャだったのよ。ここまで仕上げたアンヌの手腕が恐ろしいわ」
「ムサムサ…………ヒゲモジャ?」
そう言われても、あまりにも今の見た目とかけ離れすぎていて、想像ができませんでした。
「ヒゲはまた生やした――――」
「駄目よ」
「――――はい」
セザール様がサラダをツンツンとつつきながらボソリと呟いた瞬間、アンヌ様が被せながらに却下していました。
お二人の力関係は、アンヌ様にあるのですね。
「ルネ、私についてきてよかったの?」
夕食を終え部屋に戻ると、ルネが王城から持ってきた荷物の片付けをしていました。
ルネは、私がこの国に来た当初から、ついてくれてはいるものの、元々はヘンドリック殿下の侍女です。
今までは兼任していたようなのですが、ここに来てしまっては、完全に殿下のお世話ができなくなってしまいます。
今までルネに直接確認したことはなかったのですが、どうしても聞きたくなってしまいました。
ヘンドリック殿下は、二つ返事で了承したから大丈夫だ、とは言っていたのですが。
「今さら聞いて、ごめんなさいね」
「ヘンドリック様からご説明はなかったのですか?」
「ううん。聞いたけど……」
「それが全てです」
ルネはいつも寡黙で、必要最低限しか会話がありません。もっと仲良くなりたい、気持ちを知りたい、とは思うものの、ルネはあまり話したくなさそうなので今まではあまり踏み込めずにいました。
――――もう少しだけ、話してくれないかしら?





