35:新しい家族と。
馬車をゆっくりと走らせること二時間。王都郊外の長閑な別荘地に到着しました。
本来の速さであれば一時間と少しで着くらしいので、本当にかなりゆっくりと走ってくださったようです。申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちがない混ぜで、鼻の奥がズンと重くなりました。
「…………さみしい?」
隣に座っていた養母が心配そうに顔を覗き込んでこられたのですが、ただ気遣いが嬉しくて感動していたと言うと、ギュッと抱きしめられてしまいました。
「ほらもぉ! 受け入れてよかったでしょう!?」
「…………ん、あぁ」
「うふふっ」
同時に到着した義兄夫妻に向かって、養母がなにやら言っているのですが、真横で「ははははは!」と笑い続ける養父のせいで良く聞こえません。
「さぁ、中に入りましょう」
「はい」
私の部屋だという場所に案内されたのですが、普通に身内用のかなり広いお部屋でした。
小さめの客間などで良かったのですが。
「何を言っているの! 貴女はもう私たちの娘なのよ?」
「そもそも、客間じゃあの馬鹿が持たせた荷物が入らない」
義兄――セザール様が青みがかった髪の毛を掻き上げるようにしながら、呆れたように言われてしまいました。そして、確かにそうかと納得せざるを得ませんでした。
あの馬鹿とは、ヘンドリック様のことですね。従兄弟なのでわりと気軽にものを言い合える関係のようです。
「セザール兄様の言う通りですね。すみませんでした」
「……………………にい、さま」
眉間にシワを寄せてボソリと復唱されたので、もしや嫌だったのかと思い、慌てて謝罪をしていると、養母がくすくすと笑いながら義兄の妻であるアンヌ様と話し始めました。
「みてみて、照れてるわよ!」
「セザール様、素直じゃないんですよねぇ。事情を聞いたあとは掌返しだし、実は人一倍心配してたくせに」
「それにあの子、昔から妹を欲しがってたのよね」
「そうなんですか?」
「女の子用の人形を目の前に置いて、妹とするんだ! って、おままごとの練習までしてたのよ」
「ひぃぃぃ! 気持ち悪い!」
――――ん?
いま、アンヌ様から気持ち悪いとか聞こえたような…………?
ちらりとセザール兄様をみると、眉間のシワが尋常じゃない深さになっていました。
「あぁ、気にしなくていいよ。セザールはいつもあの二人にいじられ慣れてる」
養父がそうは言うのですが、あの眉間のシワは随分と我慢しているのでは?
「いや、照れてる」
――――照れ?
「えっと、どこに照れているんでしょうか!?」
「ん? 気持ち悪いって言われたからじゃないかな?」
――――ん?
どうやらセザール兄様は特殊な性癖の持ち主のようで、スルッと流したほうが得策そうだなと、深掘りするのを諦めました。
世の中には知らなくてもいいこともあるのです。





