33:婚約式と指輪。
王族専用の庭園から一週間。
ヘンドリック様との婚約式の日になりました。
通常は一カ月くらいの準備期間を設けるものですが、なんというか、尋常ならざる早さで書類が用意されました。
現状、私の身分は平民というか、ヴァイラントの国籍さえも持ってはいません。ただの、ティアーナです。
やる気になった王族の行動力と権力を、私は真に理解していませんでした。
庭園の二日後には、国王陛下の叔父様の養子となり、宝石研磨の技術者としてオーフェルヴェーク男爵位を創設し、授けられてしまいました。
「…………それにしても早すぎるわ」
準備を終え、現実逃避気味に窓の外を眺めていると、ヘンドリック殿下が控室に来られました。
「何が早いんだい? ん、似合ってる」
「ありがとう存じます」
ヘンドリック殿下が顔を綻ばせながら褒めてくださいました。
婚約式のための白いドレスは、まるでウェディングドレスのようで、妙に浮足立ってしまっています。
「で、何が早いんだい?」
お礼で誤魔化そうとしましたが、無駄でした。
「一週間でこうも物事が進むのかと、驚愕していただけです」
「ふふっ。確かにな」
ヘンドリック殿下の希望だけでは、進みはしなかったのです。国王陛下があまりにも乗り気過ぎて、反動――王妃陛下の反応――が恐ろしいです。
「…………そこは、ほら…………父が……」
「信用できません」
本当に、信用できないのです。
なんというか、初めの頃はとてもよいおじさまといった感じだったのですが、庭園の日から徐々に本性を現しました。
驚くほどに、トラブルを楽しむ方なのです。サプライズとか言いながら、私たちの慌てふためく姿を見ては、肩を震わせて笑うのです。
「…………うん。ごめん」
ヘンドリック様が苦笑いしつつ、謝られました。責めたかったわけではなかったのですが。いえ、でも、初めに教えてくださっていても良くないですか? やっぱり謝罪は受け取っておきましょう。
婚約式は大広間で行われましたが、参加者はごく少数のほぼ身内です。
国王陛下と、顔合わせを一度しかしたことのない養父と養母、今日初めて見た義兄夫妻。王妃陛下は不参加。
「指輪の交換を」
王族の式を執り行うのは、大司教様と決まっているそうです。大司教様の合図で指輪の交換となったのですが、ヘンドリック様に右手を差し出した瞬間に、そういえば指輪の準備など何もしていなかったと思い出しました。
「――――え?」
どうしようかと焦っていたのですが、大司教様が微笑みながら差し出してきたリングピローには、大粒のダイヤが付いた指輪と銀のリングのみのシンプルな指輪。
ダイヤは、ザンジルのものよりも数段美しく見えます。
「これは…………」
「急がせた」
「っ!」
王妃陛下よりも先に製品として完成したものを嵌めてもいいのか、という不安はありました。
ですが、ヘンドリック様がデザインを決めて下さったのだと小声で言われてしまい、そういった後ろめたさなどは消え去りました。





