30:ふりをする。
国王陛下の計画――――。
ザンジルとの交渉はヘンドリック殿下が担っていらっしゃるので、今度の契約更新時もヘンドリック様が対応するそうです。
そして、今回は報告と挨拶があるので、ザンジルに出向くと連絡するとのこと。
「ヘンドリックに婚約者ができたから、顔見せと婚約者の見聞を広めるために――ということでね?」
「…………婚約者?」
「あぁ。婚約者であるティアーナ嬢を連れて、な」
「なるほど、ありですね」
ヘンドリック殿下はいいらしいのですが気になることがあります。
ザンジルに着いた瞬間、顔を見られて素性がバレてしまうのでは?
それに――――。
「婚約者のふりをして同行するのは構わないのですが、ヘンドリック殿下にご迷惑では?」
「ふり…………いや、迷惑ではないが…………ふり」
「ぶくくくくくくく!」
ヘンドリック殿下がなにやらボソボソと呟かれたのですが、国王陛下が急に笑いだされてよく聞こえませんでした。
そして、迷惑だなんだは、とっても良い計画があるから心配しなくていい、と言われました。
「で? ザンジルに行ってどうするんです?」
「暴れておいで」
「「はい?」」
にこりと笑って言われた言葉に、ヘンドリック様とともにきょとんとなってしまいました。
暴れておいでと言われても、いったいどうやってなのでしょうか。物理的に? 概念的に?
「んー…………ひとまず、概念だね。その後、時間を置いてから物理で攻める――――」
聞けば聞くほど、荒唐無稽というべきか、強気だというべきか。強気というよりは、そもそもが強いのですが。
ちょっと無茶では? とも思うものの、もし実現できれば、私は本当の意味で復讐をやり遂げられるのではないかと、期待してしまうような内容でした。
「どうかな?」
「父上がそれで問題ないと判断するのでしたら」
「よろしいのでしょうか?」
「いいんだよ」
国王陛下がにこりと微笑んでくださいました。今度は、ただただ優しいだけの微笑み。
進む道がハッキリと照らし出されたような気がしました。
「陛下、ありがとう存じます」
「うむ。君を手放したことを、大いに後悔させてきなさい」
「はい!」
その時が訪れるまで、しっかりと牙を研いでおきましょう。
とりあえずは、直近に迫った王妃陛下へのお披露目です。この件に関しましては、国王陛下は関知していないようです。ニコリと笑って「彼女の考えることはわからん!」と堂々と言われてしまいました。
「手綱はしっかりと握っていてください」
「母親を馬に例えるんじゃあないよ」
「馬? 猛獣でしょうが」
「ぶふふっ」
陛下が楽しそうに笑いながら立ち上がると、あとは二人で過ごしなさいと言って立ち去られました。
去り際にヘンドリック殿下の耳元でなにやら囁かれたのですが、聞き取れませんでした。





