26:図書館の前で。
王城に戻り、先ずは図書館へ向かうことにしました。
ヘンドリック殿下とは馬場で別れました。それぞれの仕事をするために。
杖をつきゆっくりと歩くことにも慣れました。
気付けばヴァイラントに来て三カ月が経とうとしていました。
次に両親と妹のお墓に行くのは、復讐を終えてからと決めています。
今はただ、前を向き続けなければ。
ヘンドリック殿下は私のことを強いと言いましたが、実際はそうではないのです。
弱いと分かっているから、幾重にも小さな扉を付けているのです。
どれをしたら、どう。
コレをしたら、こう。
小さな目標と、小さな結果。
小さな我慢と、小さな褒美。
そうやって躓かないように、折れないようにしているだけなのです。
そして、脆弱なのだと知られたくないから、強く否定もしなかった。
「っ…………」
図書館に着く直前に、左脚が痛み出してしまいました。こういうとき、私は我慢して歩きません。だって痛いから。当たり前のように立ち止まります。
ほらね? とても、弱いのです。
「ん? 俯いてどうかしたのかい?」
図書館の方から声が聞こえてきたので顔を上げると、コテンと首を傾げた国王陛下がいらっしゃいました。
慌ててカーテシーをするも、痛む脚では上手くできずにふらつくのみ。
国王陛下が軽い足取りで近付いて来られ、そっと身体を支えてくださいました。
「礼儀も大切だが、自分の身体を把握しなさい」
「申し訳ございません」
「君の左脚はもう戻らないのだろう?」
「っ…………はい」
「んむ。そうだ、ちょっと付き合いなさい」
国王陛下が「ええっとあの子はこうやっていたかな?」など呟きながら、ヘンドリック殿下と同じようにエスコートを右腕側でしてくださいました。
そうして向かったのは、図書館ではなくそこから少し離れた王城奥の庭園。
「ここは入ったことがあるかな?」
「いえ、初めて訪れました」
「ふぅん? まぁ、それが正解ではあるが、馬鹿な息子だねぇ」
国王陛下がつまらなさそうにおっしゃる意味が分からなくて、お顔を見つめていましたら、何故かにやりと自虐的な笑みを向けられてしまいました。
ヘンドリック殿下が壮年になったらこんな風になるのかな、なんて思うとドキリとしてしまいます。
「ここはね、王族専用の庭園なんだよ」
「え…………?」
「ふふふ。王族しか入れず、王の許可証が無くば、他人を入れることが許されていない庭園だ」
「っ!」
ということは、私はそこに勝手に立ち入っている状態なのでは?
「――――っていうのは、まぁルールとしてあるだけなんだけどね」
有って無いようなものだよと、くすくすと笑いながら言われましたが、つまりはルールが存在するのは事実で、私はそれに違反しているのも事実なのでは?





