24:いつもと同じで、いつもと違う。
ヘンドリック殿下と馬車に乗り込みました。
いつもと同じように隣り合って座っているけれど、いつもとはちょっと違う。
手を繋ぎ、絡めた指。
特に会話はしないものの、ただこうしているだけで恐怖心が薄れ、心が落ち着きます。
「すまない」
馬車に乗ることに対して、未だに恐怖を抱いてることを気付かれてしまいました。
一人で乗せてすまなかったと言われましたが、一人で乗れるようにならねばならないのです。誰かと一緒でなければ行動できない、ヘンドリック殿下と一緒でなければ行動できない、なんてものは、ただの依存です。
「ティアーナは強いな」
「強い、でしょうか?」
「あぁ」
ヘンドリック殿下が、眩しいものを見るような表情を向けてこられました。
「ティアーナ、君は今はとても不安定だが、元来は真っ直ぐ前を向ける娘だろう」
よくわからず首を傾げていましたら、ヘンドリック殿下にくすくすと笑われてしまいました。
「ずっと君が魅力的に見えているのは、そういうところが影響しているんだろうな」
「っ!」
好意を寄せている相手に、魅力的に見えていると言われて、嬉しくない者はいるのでしょうか? いま、心臓が爆発しそうに脈打っています。この反応は普通のこと、手汗が妙に出ているのも普通のこと……たぶん。
そう自分に言い聞かせて深呼吸を繰り返しました。
「なかなか顔を出せずにすまなかった」
「とんでもございません」
工場に到着してすぐ、ヘンドリック殿下が研磨職人たちに謝罪されていました。
ここを紹介してもらったときから感じていたのですが、殿下はわりと近しい存在として認識されているようです。
不必要に畏まることはなく、敬意はしっかりと持たれている。意見の交換時は、職人たちが忌憚なく述べている。
殿下は案を押し付けようとはせず、職人たちに判断を任せています。こういうところも信頼され、尊敬の念を抱かれる要因なのでしょう。
「ティアーナはどう思う?」
「王妃陛下ですが、イヤリングはペアシェイプのブリリアントカットがかなりお気に召されていたと思います」
ペアシェイプは、ダイヤはもちろん透明度のあるどの宝石でも映える形です。おすすめはルビーやエメラルドです。
今回はエメラルドを特に推したいと思います。
「ふむ。どうしてだい?」
「その…………」
ハッキリと言うのは憚られるといいますか、恥ずかしいといいますか。
言葉を濁そうとしたのですが、職人たちさえもなぜかと聞いてくるので、答えざるを得ませんでした。
「陛下の瞳がエメラルドグリーンですので……その…………」
「っ――――! うん、そうだな。エメラルドで作ってくれ」
「「はい」」
顔が熱いです。
ヘンドリック殿下の耳までも妙に赤くなっているのは、意図が伝わったからなのでしょう。
――――恥ずかしい。





