23:まるで嵐のよう。
予想だにしていなかった濃厚な時間を過ごしたせいで、全く眠れないかと思っていましたが、思いのほかしっかりちゃんと眠っていました。
いつも通りに起きて侍女に支度を手伝ってもらい、朝食を済ませたところで、ヘンドリック殿下が部屋に来られました。
「おはよう」
「おはようございます」
二人並んでソファに座り、何も言わないまま手を繋ぎ、お互いがお互いの指をそっと撫でていました。無言なのに、なぜか充実していると感じられる瞬間です。
「あー……いかん。愛でに来たんじゃなかったんだった」
「っ! 申し訳ございませんっ」
「いや、私が悪い。昨日から箍が外れてしまっている」
ヘンドリック殿下が空いた右手で顔を覆い、大きなため息を吐かれました。
「手紙にあった話したいこと、というのを聞いてもいいかい?」
「はい」
皆の協力とたゆまぬ努力もあって、ほぼほぼ製品と言えるほどの仕上がりになったことを伝えると、ヘンドリック殿下が心底驚かれていました。
まだ一カ月経っていないのに、と。
「王妃陛下は愛されていますね。彼女に似合うデザインはこうだとか、みんなで話し合っていますよ」
「傍若無人なんだがな?」
「ふふふっ」
どうやらヘンドリック殿下も、王妃陛下に頭が上がらない様子でした。国王陛下の前では妙に大人しくしているのも、腹が立つのだと呟かれていました。
「早ければ早いほど、あの人は喜ぶだろうな。今日は昼からになるが、ともに加工場に向かいたい。待っててくれるかい?」
「ええ。もちろんです。彼らが喜びますわ」
「…………ティアーナは?」
ヘンドリック殿下が、なぜか不服そうな様子でそう言われました。意味がわからず首を傾げていると、更にムッとされてしまいました。
「ティアーナは、嬉しくないのか?」
「っ!」
それはもちろん嬉しいですし、今すでにソワソワしていたのですが、まさかここまで糖度を上げられるとは思ってもおらず、昨日までのギャップに少し戸惑ってしまいました。
「ティアーナ?」
「ううう嬉しいですっ」
「ん!」
ヘンドリック殿下が満足そうに頷いて、頬にキスをし「あとで迎えに来る」と言い残して去っていかれました。
まるで嵐のようでした。





