21:ねぇ、ティアーナ。
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ソファに座ったティアーナの前に跪き見上げると、彼女が今までにないほど困惑の表情を浮かべていた。
正直なところ、私も困惑している。
もっとスマートに進めたかったのだが、そんなちっぽけな拘りやプライドはかなぐり捨てた。
ティアーナにこれ以上傷付いて欲しくないから。
『逃げたくもなります! この関係はなんなのですか? ビジネスではなかったのですか? 契約をしたのはなんのためなのですか? 私は……………………なんのためにこの部屋にいるの? 復讐すること以外を考えさせないでっ!』
ティアーナの希望通りにしたほうがいいのかもしれない。だが、復讐を終わらせたらティアーナはどうするのだろうか? どうなるのだろうか?
唯一の心の支えがなくなってしまったら、人はもう立ち上がれない。生きる意味を復讐だけに置いてほしくない。そう仕向けた私が言えたことではないが、あのときはそうせざるを得なかった。
「未来の話をしよう」
「っ?」
眉頭に皺を寄せたティアーナ。困らせてすまない。戸惑わせてすまない。どうか、最後まで聞いて欲しい。
「復讐を勧めた私がこんな事を言ってすまない」
「……」
「復讐だけを見ないで欲しい。未来を、これからを見てほしい」
「…………見てます」
そう言って目を逸らすティアーナ。私には、嘘だと分かるんだよ?
「復讐が終わったら? 研磨技術を伝え終わったら? ティアーナ、君は何をしたい?」
「え……………………」
はくはくと口を動かして、何も答えないティアーナ。
ねぇ、ティアーナ、答えられないんだよね?
「ティアーナ、今は何も見つけられないかもしれない。終わらせることしか見えないかもしれない」
「っ!」
「君に、生きていてほしい。私が君の生きる希望になれるかは分からない。だが、そうなりたい。ともに歩みたいと思っている」
「っ…………ともに?」
「ん」
ティアーナがまたポロポロと涙を零し始めた。だが先ほどの苦しそうな表情とは全く違った。
頬を淡く染めて、少しだけ嬉しそうな表情だ。
「未来を、考えてみてくれないか?」
「……………………はい」
「ありがとう、ティアーナ」
ティアーナの左手を取り、薬指にキスをした。
まだハッキリとは伝えられないこの気持ちを唇に乗せて。





