20:溢れ返る感情。
ヘンドリック殿下はアロイス様のことが気になられているようでした。
なぜ、気になるのか。
彼のこういった反応の意味は。
導き出したくない。なぜなら、いつも期待しては萎れてしまうから。
でも、今は答えなければ話は進まないのでしょう。
「結婚せざるを得ない、というだけでした。彼の心には別の方がいましたし」
「侯爵令嬢か」
「…………あのあとに何かあったのですね?」
夜会の会場から連行されるとき、彼女がニヤリと笑っていたような気がしました。
きっと、あれは気のせいではなかったのでしょう。
「ん……………………侯爵家が引き継ぐと発表していた」
「なるほど、そして彼女が婚約者の座に」
「おそらくな」
そうなるだろうと予測はしていたものの、事実を知るのはとても苦々しいものでした。
そんなことのために、私の家族は死んだのか、と。
心の中で復讐の炎が延焼してゆき、全身に行き渡ります。
――――やり遂げなくては。
「ティアーナ」
「はい?」
ヘンドリック殿下がまた手を握ろうとされました。
もうこれ以上傷付きたくなくて、スッと避けようとしましたが、それを許さないとばかりに彼が力強く握りしめてきました。
「逃げないでくれ」
「っ!」
復讐心を再度燃やしていたせいで、気が昂っていたこともあるのでしょう。ヘンドリック殿下の言葉に感情が溢れ返ってしまいました。
「殿下には、稚拙な子どもにしか見えていないのでしょうが、年齢も心も大人です。気安く触れないでください!」
「っ!?」
「逃げたくもなります! この関係はなんなのですか? ビジネスではなかったのですか? 契約をしたのはなんのためなのですか? 私は……………………なんのためにこの部屋にいるの? 復讐すること以外を考えさせないでっ!」
声を荒らげ、叫び、感情失禁で顔は涙でくちゃくちゃ。
これのどこが大人なのか。
自分で言っておいて、馬鹿みたい。
ヘンドリック殿下が何も言わず、握りしめていた手を離しました。
――――呆れられた。
でもそれでいい。
適度に距離を保って、お互いがビジネスをしている方がいい。余計な感情を挟みたくない――と、考えていた瞬間でした。
ヘンドリック殿下が立ち上がり、なぜかソファの前にあったローテーブルをガタリと動かされました。
ぽっかりと空けられた足元は、人一人が入れそうなスペース。そこに殿下が跪かれました。
――――え!?





