18:手紙に乗せた想い。
王城に戻り、レターデスクでヘンドリック殿下に宛てて手紙を書きました。
主寝室を挟んだ隣の部屋にいるのに変だなとは思いますが、本来なら会話さえ出来ないような地位の方。今までが異常だったのです。
「これを殿下にお願いね」
「かしこまりました」
侍女に渡すとすぐに持って行ってくれました。
お時間に余裕ができた時にお話がしたい、と書いていたのですが、その日の日付が変わるか変わらないかくらいの時間に、部屋の扉がノックされました。
夜着の上から厚手のガウンを羽織り扉を開けると、ヘンドリック殿下が驚いたような顔をされました。
執務時によくされている服装なところを見るに、先程までお仕事をされていたのでしょう。
「灯りが見えたものだから……つい」
「どうぞ」
お忙しい時にお呼び立てして申し訳ないと思いつつ、部屋に招き入れようとしましたら、ヘンドリック殿下が入る直前で立ち止まり、少し悩まれるような仕草をされました。
「殿下?」
「すまない、夜分に来るべきではなかった。ここで伺おう」
「…………はい」
そもそも、手紙で伝えても構わない内容ではあったので、入口で伝えるのは構わないのですが、なんだか淋しいといいますか……。
――――あ。
手紙で構わなかった、それなのになぜ手紙で伝えなかったのか。分不相応な自分の想いに気がついてしまいました。
逢いたかったから。
半月以上も殿下に逢えない日々が続いていたことに、心の奥底で淋しさを感じていたから、手紙に詳細を書かなかった。直接顔を合わせられるように。
自分本位の考えで相手を動かそうとしていたことに、膝から崩れ落ちそうなほどの恐怖を覚えました。これではアロイス様と大差ないではないか、と。
「申し訳ございませんでした」
「え?」
ヘンドリック殿下に謝罪すると、彼がきょとんとした顔でこちらを見つめて来られました。エメラルドグリーンの瞳に少し不安が見えた気がしました。
なんとなく気づいたのは、私たちはお互いが言いたいことを言えていないのではないかということ。心から信頼しあえていないのかもしれません。
助けてくださったことに、今も保護してくださっていることに、多大なる恩は感じています。
でもそれと信頼は、あまり関係ないのかもしれません。
王妃陛下に呼び出された際、不安や疑心暗鬼に駆られましたから。
「殿下」
「ん」
「これからに関するお話をしたいので、このような形ではなく、日中のどこかでお時間をください。わがままを言って申し訳ございません」
「…………手紙に書いてた話って、そのこと?」
ヘンドリック殿下が首をこてんと傾けました。赤い髪がするりと流れていきます。この仕草をみるのも久しぶりな気がします。
「いえ。今回のお手紙は…………なかったことにしてください。誠に申し訳ございませんでした」
「え? いや、待ってくれ!」
臣下の礼をしたかったのですが、脚の怪我のせいで一瞬しかできません。悔しい気持ちを噛み締めながら扉を閉じようとしていたのですが、ヘンドリック殿下が扉の隙間から体をねじ込み室内に入って来られました。
「あっ!」
扉が動いたこともあり、バランスを崩してしまいました。倒れると思ったと同時にスパイシーな匂いと温かさに包まれました。
どうやら、ヘンドリック様が抱きとめてくださったようです。
「っ…………すまない」
消え入りそうな声で謝られてしまいましたが、これは何に対する謝罪なのでしょうか?





