16:今後の予定を決める。
◇◇◇◇◇
ヘンドリック殿下が部屋から出ていかれました。機嫌を損ねてしまったらどうしようという不安がありましたが、どうやら大丈夫だったようです。
ベッドに入り、明日からの予定を脳内で組み立てます。
明日の午後からなら、殿下が一緒に研磨職人の加工場に同行できる、とのことでした。
あの三人とはわりと打ち解けられたので、一人でも大丈夫だと言いましたが、頑として首を縦に振ってはくださいませんでした。
「――――ということで、一カ月以内にお願いね」
「一カ月…………無理じゃなかろうが……王妃陛下にか」
「ええ。とても楽しみにされていますの」
三人に話をある程度伏せつつ伝えると、三者三様なんともいえない反応をされました。ただ、三人とも職人のプライドにかけて、絶対にやり遂げなければという気迫は見えました。
「無理を言ってごめんなさいね」
「いんや、いい機会じゃよ」
ゲアトが言うには、当初こそあんな態度を取りはしたものの、今まで新たな研磨技術を開発しようなんて思いはなかったそう。ただただ、伝統の製法を守るだけだった。
各々の弟子や抱えている職人たちの中には、惰性だけで作り続けている者もいるのだとか。
今回のことで、皆が一様にやる気に満ち溢れているそうなのです。自分たちもザンジルの研磨を試したいと。
「どうせなら、得意分野に合わせて研磨方法を手分けしてみては? 陛下たちを驚かせるなんてのはどうだ?」
ゲアトが得意なのはダイヤの加工。
アヒムはエメラルドなどに使われるステップカットなどの四角形が得意。
ホルガーはマーキースカットなどの楕円が得意とのことでした。
「研磨の練習に使う石はこちらで提供する。思う存分やれ」
ヘンドリック殿下がそう言うと、三人ともに深々と臣下の礼を取りました。慌てて私も立ち上り臣下の礼を取ろうとしたのですが、怒られてしまいした。
「ティアーナはしなくていい。怪我に障る」
「はい。……申し訳ございません」
「っ――――」
ヘンドリック様が何かを言おうとされていたのですが、結局は「気にせず話を進めてくれ」と言われてしまいました。
三人には得意分野も含め、オーフェルヴェーク家と職人たちで編み出した様々なカット法を一気に説明しました。各々が誰がどれをメインで練習するか、担当決めをしていました。
一通り試しはしてみるものの、得意分野に合わせるようにしたそうです。
「精神的にもかなりきつくなると思うわ。仕上がりに不安も出るでしょう。私は研磨は出来ませんが、カットの考え方や判断は出来ます。助けられることは微量だとは思うけど、毎日ここに手伝いに来てもいいかしら?」
ヘンドリック殿下に聞くと『却下』の一択になりそうな予感があります。なぜか。
なので、先に職人たちの許可を取ることにしました。そうすれば、殿下は許可を出さざるを得ないので。
「おお、そうしてくださると非常に助かるのぉ」
「……ハァ。分かった」
ゲアトがそう言うと、ヘンドリック殿下が眉間を押さえながら仕方なさそうに返事をされました。
――――頭痛?
今日はとてもいい天気なのですが、夕方から崩れるのでしょうか?
たしか頭痛持ちの方は、天候が荒れる前に頭が痛みだすとか。大変ですね。





