14:口裏を合わせる。
ソファで居住まいを正し、ヘンドリック殿下に向き直りました。その動きで空気を読み取られたのか、彼も座り直してくださいました。
こういうところが優しいなと思います。
「王妃陛下に言われました。私を理由に進めていた婚約を反故にしたと」
「…………ん」
「事実なのですか?」
「元々、結婚する気など一切なかったんだが、母が乗り気でね。断るために今回のことを都合よく使ってすまない」
なるほど、渡りに船の理由をつけられたのですね。
「承知しました。他に知っておいたほうが良いことはありませんか?」
「……怒らないのか?」
ヘンドリック殿下が不思議そうに聞いてこられましたが、怒る理由はあまりないかと思いました。
私は拾われた身ですし、殿下から受けている施しに対して返せるものが今はまだ少ない状態です。私の存在を使って物事がうまく進むのであれば、そうされて構わないと思います。
ただ、知らずにいて、今回のように手探りで対応するのは得策ではないので、知りたかったのです。殿下の考えを。
「隠していることは…………ない」
なぜ含んだように言われるのか。なぜ少しだけエメラルドの瞳を逸らされてしまったのか。
聞きたいけれど、いまは聞けるような関係性ではないのかもしれません。
「いつか、教えてくださいね? なにも知らずにまた断罪されたくはないので」
「っ! すまない。不安や恐怖に陥れるつもりはなかったんだ」
「承知しております」
ヘンドリック殿下がアロイス様のような卑劣なことをするはずがない、そう本能が囁くので、それを信じようと思います。
「ん。ありがとう」
「では、次の問題ですが――――」
「次の!?」
なぜ驚かれたのでしょうか?
気にせず話を進めてくれと言われたので進めますが。
「王妃陛下とのお話の中で、ブリリアントカットした宝石を一カ月後にお見せすると約束してしまいました。実現可能な日数ではありますが、あの三人には早急に伝えていただければと」
「一カ月…………あれほどのものが、本当に可能なのか?」
複雑そうに見えますが、パターンがあるのです。それさえ理解してしまえば、あとは元々の研磨技術を駆使するだけ。
…………と、言うだけなら簡単なのですが、流石に無茶振りをしているとは思いますので、出来るだけ早く知らせておきたいなと思ったのです。
「それから、ヘンドリック様の発案で、王妃陛下の一番好きなブリリアントカットをする、ということになっておりますので、もしお伺いされた場合は口裏合わせ、よろしくお願いいたします」
「分かった…………ん」
ヘンドリック様はお返事してくださったものの、なんだか納得していないような雰囲気がありました。ですが、気にしないでくれと言われるとどうにも踏み込めません。





