13:ブラフと覚悟。
王妃陛下がヘンドリック殿下に来るように言いました。が、一向に来られません。
「ふふっ。表情を一切変えないのね」
驚きのあまり顔が固まっていたのですが、都合よく受け取っていただけたようです。
「騙してごめんなさいね」
「いえ」
「貴女の覚悟は受け取ったわ。好きになさい」
「っ、ありがとう存じます」
受け入れてもらえたと思いホッとした瞬間、衝撃的な宣言をされてしまいました。
「婚約を反故にした問題と、ブリリアントカットの件は別ですが」
「……承知しております」
とは言ったものの、婚約の件は一切知りませんし、カットはあの三人に頑張ってもらうしかありません。
先ずは、このお茶会を無事に終わらせることですね。
最終的には、王妃陛下にヴァイラントのためになる働きを期待している、と言ってはいただけました。瞳は鋭いままでしたが。
「ルネ、ヘンドリック殿下に今夜お時間をくださいと連絡したいの」
「…………承知しました」
侍女――ルネにお願いすると、怪訝な顔をされてしまいました。
あのお茶会では侍女たちは排除され、二人きりになってから話をしていましたので、呼び出した理由が謎なのかもしれません。
「大丈夫、貴女の主人の不利になるようなことは一切しないわ」
「承知しました」
深々と臣下の礼をしたあと、侍女が部屋から出ていきました。きっとヘンドリック殿下に伝言しに行ってくれたのでしょう。
予想していたよりも早い時間に、ヘンドリック殿下が部屋に来てくださいました。
「お呼び立てして申し訳ございません」
「いや、こちらこそすまなかったな。母があのように動くとは予想外だった」
私を保護すること、この部屋を使うことは、国王陛下と王妃陛下に、ちゃんと許可を取っていたそうです。
両陛下とも好きにしていいと仰っていたそうなのですが、どうやら王妃陛下は思うことがあったようです。
「私の説得が弱かったか」
ヘンドリック殿下が大きなため息を吐きながら、ソファに身体を投げ出されました。
高い位置でひとつに結ばれていた赤い髪を解き、ふるふると頭を振ったり、首を左右に捻っています。
「お疲れですね」
「んー、ちょっとな」
そんな時に呼び出して申し訳ないとは思うものの、何度も『申し訳ない』と言われても煩わしいだけでしょうから、ここはグッと我慢ですね。
「少し、お伺いしたいことができたのですが、お時間いただいてもよろしいでしょうか?」
「ん」
ヘンドリック殿下がソファに投げ出していた身体を起こし、背もたれに肘をついてこちらを向かれました。
とても寛がれている様子なので、ちょっと聞きづらくなってきました。
――――でも、聞かねば。
聞かなければ進めないと思うので、覚悟を決めましょう。





