10:ともに夕食を。
馬車の中でもピッタリと寄り添ったまま。
歩くときは左手で杖をつかねばならないため、ヘンドリック様は私の右側に立ってくださいます。ですが、馬車では左側に座られます。
そしていまは、なぜか左の膝をそっと撫でられていました。
普通は恋仲ではない男性に触れられるなど、拒否しなければならないのでしょうが、ヘンドリック様は私を妹か親戚の子どものような感覚で見てくださっているかもしれません。
頭を撫でられたり、夜におやすみの挨拶をしに来てくださいますし。
それに加えて、嫌ではないので拒否する理由もないかなと。柔らかで温かい手の感触は痛みさえも落ち着くような気がします。
王城の部屋に戻り少し休憩したあと、夕食を取ることになりました。
ヘンドリック様は、今日一日予定を空けてくださっていたそうで、たまには一緒に夕食を取ろうと誘われました。
てっきり部屋でともに食べるのかと思っていましたら、王族専用の晩餐室で、と言われました。
「殿下、それは流石に」
「私と食事は嫌か?」
――――その聞き方はずるい!
首を傾げ、赤い髪をさらりと流し、エメラルドの瞳を潤ませるようにして聞かれれば、嫌だなんて言えるはずもなく。
ぜひご一緒させてください、と伝えると破顔されてしまいました。そんなに嬉しそうにされてしまうと、ちょっと勘違いしそうです。
気を引き締めなければ。
まさか、国王陛下や王妃陛下までも同席されるとは思ってもいませんでした。でもよく考えれば当たり前のことです。
一瞬、頭が真っ白になりかけたものの、慌てずしっかりとカーテシーをしました。
「お初にお目にかかります。今までご挨拶もせず大変申し訳ございませんでした」
そう。
私、両陛下にご挨拶など一切していなかったのです。王太子殿下の妃用の部屋を借りておきながら。ヘンドリック様に大丈夫だと言われてはいたものの。
「ははは。気にせずともよい」
「…………」
武人といった雰囲気の金髪の国王陛下。エメラルドの瞳や顔立ちはヘンドリック様とそっくりでした。
快活に笑われており、本当に気にしていない、といった雰囲気です。
片や、ヘンドリック様と同じ真っ赤な髪の毛なのに、凛とした冷たさのある雰囲気の王妃陛下。
無言でジッとこちらを見つめられていたのですが、視線がピッタリと合うと、すっと逸らされてしまいました。
「さぁ、席に着きなさい」
「はい」
終始穏やかに食事は終わったのですが、王妃陛下は最後まで無言でした。
やはりというべきか、当たり前というべきか、よくは思われていないようです。





