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0.過去の記憶

 七年前――。


「ツヅミ! そいつ捕まえて!」

「なんだいきなり!?」

「そいつ、マーガレットを狙ってた!」


 音は確かに三人だった。

 ニ人捕まえたから、あと一人だと思っていた。

 あの時、私が最後の一人を自分で追いかけていたら、ツヅミはマーガレットの元へ間に合ったのだろうか……。


「キ、ユリ……」

「マーガレット……?」


 聞いたことのないマーガレットの声に、嫌な気配がした。


「マーガレットっ!」


 声のした方へ視線を向けると、大通りの向こうにある古びた大きな時計塔の下で、胸にナイフの刺さったマーガレットが道に倒れ込もうとしていた。そして、その前にはフードとマントで身を隠した男が立っていた。

 確かに音は三人で、四人目の気配なんてどこにもなかった。なのになんで……?


「何、してる……?」


 私の声に気づいた男は一瞬こっちを見たけど、曇天の空から降り注ぐ雨がひどくて、その顔までは見えなかった。


「マーガレットから離れろっ!!」


 怒りに身を任せて走り出した私は謎の男に迫ったけれど、私の拳が届くことはなかった。


「待てっ!」


 カツン、カツン、とスラム街の石畳の道を走って逃げていく男の靴音が響き、雨の中遠のいて行く。


「……かはっ……ッ!」

「マーガレット!」


 だが、逃げる男を追う余裕はなく、私は道に横たわったマーガレットを抱き起した。


「キ、ユリ……」

「マーガレット!」

「ごめん、ね……」

「すぐ医者に連れて行くから!」

「やく、そく……やぶ……て……」

「もう喋らなくていいから!」

「泣か、ないで……笑って……ね?」

「無理だよ……!」

「だ、い……す……きよ…………」


 なんで、こうなった?

 どうして……!

 マーガレットの呼吸がどんどん小さくなって行くのが聞こえた。

 スラムで長い間生きている私は、この呼吸が何を意味するのかを知っている。


「っ! ……私も、ずっとずっと大好きだよ……お母さん……っ!」


 ためらいがちに出た最後の言葉が聞こえたのか、聞こえなかったのかはわからない。

 私が言い終わるころには、マーガレットはもう息を引き取っていた。


「マーガレット……? マーガレット! マーガレットっ!!」


 誰もいない、スラム街の道の上、土砂降りの雨の中、私だけが聞いていた。


 ――ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン。


 時刻を知らせる時計の鐘が鳴り響く中、カツン、カツン……と歪な左右非対称の音を立て走り去る男の足音を――。


 ***


 七年前のその日、ベトワール王国の王妃、マーガレットが死んだ。

 誰よりも平和を望み、民に愛された可憐な花。

 なぜあの日、王妃がスラムにいたのか、それを知る人間は誰もいなかった。

 けれど、捕縛された三人のイグラン兵の暗殺者が自害したため、細かな真相こそ定かではないが、三人がイグラン兵だったことと、殺害に使用されたナイフがイグランの彫刻が彫られた物だったことから、隣国イグランが送り込んだ四人目の暗殺者に殺害されたものと断定された。


 この件について、ベトワール国王カクタスはイグランへ強く抗議する声明を出したが、かつてよりベトワールの資源や貿易港を欲しがっていた内陸の大国イグランは言いがかりをつけられたとして、ここぞとばかりにベトワールへの侵攻を開始した。

 そして、マーガレットを愛してやまなかったベトワールの民も、愛する祖国を渡してなるものかと挙兵。最後まで戦争に反対していた国王カクタスもまた、国政を共に担ってきた右腕である参謀総長サンダーソンに説得され、戦争に乗り出す決意を固めた。

 こうして長年平和を貫いてきたベトワールだったが、皮肉なことに、一番戦争に反対し、平和を願って来たマーガレットの死によって戦争は開始された。


 ***

始まりました!

長い戦いになりますが、お付き合いいただけますと幸いです!

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